見慣れてきた光景
「大魔王様。新生派の魔王軍は六割方が壊滅しました」
コルティが大魔王に体を向けると、彼女の背後で無数の肉片が地面に落ちていく。
既にコルティ達が通ってきた道には誰も立っておらず、地面の色は同じ色で染まっていた。
「そうか。もうそこまで進んだか」
単に歩いていただけだったが、と大魔王が足を止める。
大魔王が死者を呼び起こす魔法、ネクロマンスによって大地から掘り起こされた死者は、既に倍へと膨れあがっていた。痛みも疲れも感じず、手や首がもげようとも前進し、生前から握りしめていた武器を朽ちても尚単純に振り回している死者の軍勢は、人間はもとより、遥かに力をもつ魔物達ですら恐怖させ、降伏する者も、戦意を喪失する者も等しくこの世から生を奪っていく。
それだけでなく、目の前で首を撥ねられた魔物が、数秒後には糸の切れかけた人形のように立ち上がり、十数秒前まで同胞であった魔物達を襲う。その光景を地獄と例えても誇張だと叫ぶ者はいなかった。
もしこの光景を一枚の絵に残せたのであれば、戦争の愚かさ、大魔王の恐ろしさを一生歴史に訴え続ける傑作になったに違いない。
ケリケラが上空から無数の竜巻を起こし、魔物達を切り刻む。コルティが振るう白銀の斧は、その衝撃波だけでも魔物の肉体を粉砕する。最早、作業と呼ぶに近い動きであった。
「大魔王様。ケリケラが魔法陣の周辺を確保しました。生存者………ありません」
「これで、魔王城までの道は確保できたな」
大魔王に、例の集落に戻るつもりは全くない。
「………む」
大魔王がブレイダスの街に顔を向ける。
「どうかしましたか?」
「シドリー達の魔力が消えた」
「………残念です」
これで魔王派の魔王軍も全滅した事になる。コルティは自分の祖先の命が断たれ、静かに目を瞑る。
「後で拾いに行こう。あの者達との約束は果たさなければならぬ」
「………そうですね。ただ、その表現は余りよろしくありません」
「うむ、言い終えてからだが、余も気付いた。以後、気を付けるとしよう」
大魔王が再び歩き出す。
残るはほぼ戦意を喪失した新生派の魔王軍とその先に待つ人の集団だけとなった。
進む先で大きな声と音が空にあがった。
躯と化した死者には、作れない音である。
「最前線で、貴族派の王国騎士団と接触したようです」
コルティが大魔王の顔色を窺う。
「構う必要はない。我々は奴の要望通りに動いているだけだ。世は事もなし、何も問題はない」
大魔王の肩が静かに震える。
「真実を知る者は、少ない方が良いだろう。お互いにな」
大魔王の足並みは変わらずゆっくりと、だが確実にこの平原に存在する生物を分け隔てなく耕していった。




