⑥後味の悪い最期
イーチャウは吸い込んだ酸素を全て使い果たすかのように、攻め続けた。
「デル! これが貴様が大言し、大事にしてきた『正義』か!? 貴様のやっている事とは我々とどう違う! 何が違う!」
錯乱に近い罵倒。デルも王女も口を閉じ続ける。
「私は全て知っているぞ! そもそも蛮族が何故人間達と戦っているのかを!」
「馬鹿、止めろ!」
デルが口を開いた。
「何を今更! 私は全てを―――」「止めろ、ギュード!」
自分を止めようとしていた言葉ではなかった。イーチャウがその事に気付くと同時に、彼の喉からは赤く染まった短剣が突き出ていた。
「が、がはぁ!」
声が出せず、息もできず、イーチャウは自分の喉から生えていた短剣に震える手を伸ばす。
「それ以上話すと、色々と面倒な事になるんでね………まぁ、色々と間に合って良かった」
―――そうだろう?
そう訴えかけるようなギュードの視線と零れていく笑みに、デル達は苦虫を噛みしめた表情を作りだした。
無音、無気配で彼の背後を襲ったギュードは、短剣を喉から引き抜く。致命傷となったイーチャウは喉から漏れた血と空気で数度胸を膨らませると姿勢を崩し、重力に任せて落馬。そのまま目を閉じる力もなく、動きを止める。
誰もが想像しなかった幕引きに周囲は何も言えず、唯々佇んでいた。
「ギュード。これは、どういう事ですか?」
アイナ王女が静寂を破った。彼女の鋭い追及が、その瞳と共に彼を糾弾する。
「これも依頼なもので………どうか、勘弁してくださいませませ」
故意に語尾を繰り返し、不真面目な口調で答えたギュードが、小さく舌を出しながら血の滴る短剣を地面に放り投げた。汚れた短剣は安い音を立てて小さく跳ねると、刀身に付いた赤い液体で地面を汚し、ついには動かなくなった。
デルが馬ごと一歩前に進む。
「ギュード。お前の………いや、クライルの居場所を教えてくれ」
「さぁ、知らないねぇ」
眉を小さく上下させ、さらに肩をすくめ、あからさまな表情で返した。
「お前っ―――」「ちょっと待った」
デルは時と場所を無視した彼の行動に対し、我慢してきた感情を表にしようとしたが、ギュードが左の手の平を前に突き出し、右手の人差し指を口元に立てた。
「依頼主から伝言がある」
デルと王女の表情が僅かに変わった。
「今すぐ部隊をまとめて、シモノフまで後退せよ、だそうだ」
「まとめろって………敵は!? まだ新生派の魔王軍は健在だ! それどころかっ―――」「ほぼ全滅するってよ」
デルの大声に、ポケットに手を入れたギュードが言葉を被せる。
「何? 今何と」
「だから、もう魔王軍………あー、新生派の魔王軍はまともに機能しないってよ」
ギュードが自分の視界の外に向け、くいと親指を向けた。
その先では、大きな土煙が上がり、何かが宙を舞っていた。
「早くしないと………巻き込まれるぞ?」
声こそ余裕振っているギュードも、外からは見えない拳は震え、頬には一筋の汗が流れていた。




