⑤正義に負けたのではない
「金竜の騎士達よ!」
流れは完全にデル達に向きつつあった。さらに王女が声を高らかに畳みかける。
「貴方達は騙されていただけにすぎません! しかし汚辱を払拭する意志あらば、私の命に従いなさい! 騎士として、その誇りを胸に、自らの間違いを自らの行動で正すのです!」
デルは王女の言葉を噛みしめながら、その丹力の強さと器の大きさに感服する。金竜騎士団は元々、イーチャウの息のかかった貴族達であり、高慢で私欲のために権力を用いる者達の集まりであった。普通に考えれば、彼と同様に弾劾されるべき身であったが、王女はそれを『騙されていただけ』という免罪符を御旗の先に掲げたのである。
王女が生きていた事で、今まで掲げていた大義が完全に失われていた。
そして王女の言葉を拾わなければ、自分に、そして一族にも未来はない。金竜騎士団の騎士達は、自分と自分の家名を守る選択肢を選ばざるを得なかった。
「王女殿下に忠誠を捧げる者は、その信念を掲げよ!」
考える隙を与えずにシエンが号令を放つ。
黄金の鎧を着た者達は、波打つように槍や剣を顔の前に掲げていく。打算と言えば情けなく、不義理と言えば心苦しいが、今の王女達にとっては、不利な状況を覆す最大の転換期でもあった。
「き、貴様らぁぁぁぁ!」
全ての部下に裏切られ、イーチャウは歯ぎしりを激しく鳴らしながら、黄金の騎士達に包囲され、槍と剣を向けられる。
「終わりだ、イーチャウ。非道なお前ではあるが、武器を降ろせば………少なくともお前の家には最低限の生活を保障しよう」
デルは一瞬言葉を詰まらせたが、表情を変える事なく淡々と、しかし鋭い視線のままイーチャウに剣を向けた。王女もデルの背後に回ると、イーチャウに見えるよう深く頷き、デルの言葉を保証する。
「くそ………くそくそくそくそおおおああぁぁぁ!」
これ以上にない屈辱にまみれたイーチャウは、汚い言葉を立て続けに並べ続ける。瞳孔は開き、鼻息は荒く、こめかみに血管が浮き出るほどに顔を赤くし、冷静さを完全に欠いていた。
「私は間違ってはいない! 何も間違ってはいない!」
目に見える全ての騎士達に向かって指を差し、この場にいる全員を全ての力でもって否定する。
「結局の所、お前もお前達も、我が身可愛さの保身で判断したにすぎない! デル! 私は貴様の『正義』に負けたのではない! 私が掲げた『利』よりも、貴様達が並べた『利』の方が上回っていただけだ!」
その言葉にデルが沈黙で返す。




