④手のひらの道化
混乱から立ち直りつつあった金竜騎士団が、逆走する騎士達の異変に気付く。彼らは容赦なく矢を放ち、空にを切る雨となってデル達を襲う。
先頭を走っていたバルデックの左肩に矢が突き刺さり、矢を握りしめたまま落馬する。
「デル総長! 先に行ってください!」
「ここは我々で抑えます!」
落馬しても尚叫ぶ。老将フェルラントは彼を守るべく馬ごと前に立ち、次々と降り注ぐ矢を打ち払う壁となる。
「すまん!」
「総長、お急ぎ下さい!」
次の先頭として走るシエンに急かされ、デルは手綱を持ち上げると再び馬を進めた。
既にデル達の騎士団は散り散りになり、金竜騎士団に突撃した時点で、誰がどこで戦っているのかすら把握ができなくなった。それでも高い金属音を何度も響かせ、金竜騎士団が随所で混乱している現状から、まだ戦っている者達がいる事が分かる。
「イーーーチャァァァウっ!」
ついに、最後方で指示を出していたイーチャウをデルが目視で捉えた。そして手綱を引き上げると、速度を維持したまま馬の前足を持ち上げて大きく防護柵を飛び越えた。
「その声、貴様はまさか!?」
慌ててイーチャウが槍を持ち上げる。
既に間合いに入り込んでいたデルは、左の剣を振り下ろしてイーチャウの槍を抑え込むと、残った右の剣でイーチャウの首を狙う。
「無駄だ!」
イーチャウの金の鎧から光の槍が飛び出し、デルの一撃を弾く。彼は着地した馬を回り込ませて速度を落とし、イーチャウとの距離をとり直した。
「デル………貴様、生きていたのか」
「生憎、最近は悪運の方に好かれていてな。簡単には死なせてくれないらしい」
高揚に、デルが息を強く吐き捨てる。
予定のない生存者に、イーチャウの顔の中心にしわが集まっていく。
「貴様………自分が何をしているのか分かっているのか! 蛮族との決戦に水を差す所か、我々人間にとって邪魔にしかならない行動をとっている! 仮にも騎士団長を務めた身にも関わらず、何とも思わないのか!?」
槍を持つ右手を広げ、辺りを見回してみろと言わんばかりにイーチャウの怒号が吐き捨てられる。
確かに何も知らない者から見れば、彼の言っている事には十分な説得力があった。周囲の騎士達もその想いから彼に付き従い、行動している者も多いのだろう。現に騎士総長であるイーチャウを守ろうと、黄金の騎士達がデルに槍を向け始めている。
だが、そんな彼らの動きを、一頭の馬に乗った二人の女性が止めに入った。
「全員武器を収めよ! 騎士達よ、誰に向かって刃を向けているのか分かっているのか!?」
シエンが声を上げる。
「ここにいるのは、アイナ王女殿下であるぞ!」
この場にいる全ての者達が一斉に一人の女性に視線を向けた。
「ば、馬鹿なあぁぁっ! い、生きているはずがない!」
王女の焼死体を見ていたイーチャウの体が大きくのけ反った。周囲の騎士達も、魔物に殺されたはずの王女が目の前に現れた事で動揺を隠しきれず、槍の角度を徐々に下げていくと周囲の顔色を伺い、それ以上動けなくなっていた。
シエンの背中にいたアイナ王女が剣を掲げる。
「皆の者、この通り私は無事です。デル元団長は命の危機にあった私の身を救ってくれた恩人。決して危害を加えてはなりません!」
そして剣先を空から、イーチャウへと向けた。
「真の敵は私の命を奪おうと画策し、国家を私物化せんと計画したイーチャウと宰相クライルにあります!」
「………は、計ったなぁ! クライルぅっ!」
イーチャウは、ようやく自分が騙されていた事に気付く。共通の利益の為に手を取り合ったはずが、実は宰相の手の平で踊っていただけの存在だったと、決して引き返す事ができない場で悟ってしまった。
彼はクライルの名を辺り一面に呼び散らしたが、諸悪の根源たる男の姿も返事も欠片程も見る事が出来なかった。




