②志す道は異なれど
「隊長………副長。ここは私に任せてもらえませんか」
バイオレットは足元の剣を掴むと、鎧に付いた埃を払って数歩前に出る。
「彼女が五人の内の一人ならば、残りの77柱は二人。恐らく最後に出てくるのが、今回の戦いの黒幕ともいえる存在でしょう。ボーマさんの言い方ではありませんが、私にも『盾』の矜持、その一片だけでも背負わせてください………もう二度と手放したりはしませんから」
「バイオレット………」
タイサは彼女の決意に満ちた目を見た。だが、覚悟を決めた瞳に対して投げかける言葉を、出す事が出来ずにいた。
「バイオレット。また後で会いましょう」
エコーが笑って彼女の言葉を受け入れる。
「はい。この戦いが終わったら副長からは色々と教わりたい事があります」
「ええ。分かったわ………隊長、先に行きましょう」
エコーが先導する。
「………死ぬな。これは命令だ」
「それは魔王としてですか? それとも騎士団長としてですか? でも了解です。隊長」
タイサがエコーに続いて中央の階段を上る。その際にタイサはバールの横を故意に通ってみせたが、彼女は何も反応せず、すれ違いの風を受けて黒髪をなびかせる。
「良いのですか? 貴方にとっての敵を通してしまっても」
剣を構えるバイオレット。その姿は、未だ達人の域に踏み込めていないが、その決意だけは鋼鉄を切り裂く彫像であった。対するバールは、タイサ達には目もくれずにバイオレットを鋭く見据えると、膝を折り、両手の拳を中段にして構え、相手の僅かな動きを見逃さない猛獣の沈黙の様を維持する。
「構わない。我が闘争において、一対一の戦いは神聖なものとしている。故に、それ以上に優先される事情などはない」
仲間の為に一人になってでも戦おうとする戦人としての気概。バールは相手から挑戦を求められる事を何よりも尊いものだと説く。
「我が国では、古来よりそれをブシドーと呼んでいる」
「私達からしてみれば、それは騎士道精神と似ていますね」
生きて来た道は異なれど、精神的な部分では共通している世界があった。
だが生き残るのは一人だけ。
「行くぞ。騎士の娘よ」
バールがバイオレットに密着する程に接近していた。
「………目を凝らしても見えないっ!」
「これを縮地という。以後お見知りおきを」
バイオレットが咄嗟に剣を振り上げる。
「やはり剣は遅いな」
「なら、槍はどうですか!?」
バイオレットの銀色の胸当てから、無数の棘がバールを襲う。
剣だけでは先程のように奪い取られる。ならばと彼女は鎧に擬態しているエクセルに、予め攻撃を命じていた。バールには、鋭利な攻撃を払う為の武器も耐える為の防具もない。自ら飛び込んだ事が災いし、姿勢的にも避けようがなかった。
「金剛」
彼女の一言で、何かが変わった訳ではなかった。しかし、バイオレットの槍は彼女を確実に捉えたものの、その槍の全てが彼女の皮膚で止められていた。




