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lost19 虚構の歴史、真実の物語  作者: JHST
第六章 命を懸けて
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⑩差し伸べられる小さな手を

「いや、無駄ではないさ」

 シドリーは僅かに遅くなった二人の攻撃の隙を突き、無口なファルケンに向かって襲い掛かった。

 ファルケンから見れば溶かした斧の先が落ちた途端にシドリーが両手を広げて襲い掛かってきたように見えていたに違いない。


「こいつ………今度は僕をっ」

 白銀の壁が全て溶け落ちた。ファルケンの剣速は元に戻り、シドリーの細い胴を薙ぎ払う。

 だがまたしても刀身の速度が緩やかになる。それはガラスのような何かが割れながら剣の動きを阻害していた。

「防御………魔法!?」

 ファルケンの表情が初めて曇る。

「全魔力を解放」

 ついにシドリーの両手がファルケンを抱きかかえる距離まで詰め寄る。そして彼女は空気を掴むかのように五指を立て、ファルケンの背中と胸に突き立てた。

「受けよ。我が最大にして最強の一手」

 両手の、しかも前後を挟んだ状態での八頸が放たれる。

 シドリーの全魔力を背中と胸に注がれた子どもの体は、魔力の暴走と共振反応で膨れ上がり、一瞬にして上半身が赤と肌色の破片と化して飛び散った。

「オセ………仇を討ったぞ」

 シドリーは笑ったまま目を瞑ると、背中から光る刀身によって消滅する。


「こ、こいつら………命が惜しくはないの!? どうかしてるわ!」

 理解不能と感情を見せるリーザ。

 だが攻撃は終わらない。

 彼女の持つ刀身が光り終えると、今度は巨大な雷の球体が地面を削りながらリーザに向かって襲い掛かってきたのである。

 その球体の背後では、剣を振り終えたイリーナが全てを貫く目で睨みつけていた。

「くっ!」

 リーザはすぐさま刀身を光らせると電撃の結界を張り、イリーナの雷球と相殺させる。


「一体何なのよっ!」

 目を大きくしても理解できないままの現実。ついにリーザの剣が限界を迎えて砕け散った。

 それでも攻撃は止まない。

「断罪の蒼剣! 第二の裁き!」

 イリーナが体を滑り込ませるように懐へ入っていた。彼女の肩に乗せている刀身が光り、焦るリーザの体を捉える。

「ま………まだよっ!」

 リーザは足元に落ちていたファルケンの剣の柄をつま先で真上に蹴り上げると、それを掴んで叫ぶ。

「「断罪の蒼剣! 第三の裁き!」」

 二度目の結界が展開される。

 だがその声は同時。

 イリーナは剣を振り下ろしながら同時に結界を発生させ、リーザの結界を内側から相殺させる。


「そ、そんな。力を重ねて解放出来るなんて………聞いてないわよ!」

 リーザは迫りくる刀身を見上げながら放心する。

 知った技で斬られる最期。

 だが、リーザの目の前でイリーナの刀身は砕け散り、その破片が彼女の頬を切り裂くだけに終わった。


「………何が?」

 リーザが視線を泳がせると、柄だけとなった剣を持ちながら構えを解いたイリーナが困った顔のまま立っている。

「どうやら三度使ったら、二度目の途中でも壊れちゃうみたいです………とても失敗しました」

 イリーナが後頭部を掻いて誤魔化し、持っていた柄を投げ捨てた。

 それでも彼女は左右の腰に手を当て、胸を張る。

「だけど私の勝ちです! どうですか? 全力を出しても勝てなかった気持ちは!?」

「………何を」

 訳が分からず、リーザは立ちつくしていた。


 イリーナが近付く。

「私もお師匠様と戦って負けて………そして気付かされました」

 そして手を差し伸べる。

「この世界は、とっても難しくて、大変で………でもとても楽しいものです」

「難しくて、大変で、でも………とても楽しいもの?」

 言葉を繰り返し、リーザは自分の手の平を見つめる。

「はい! 良かったらお師匠様と一緒に来ませんか?」

 イリーナは彼女に握手を求めた。それは自分が師から受け取ったものと同じで、その手を取った時から彼女は生まれ変わったのであった。

 イリーナはそれを再現してみせた。


「何を言っているのか分からないわ」

「………ぁ」

 イリーナの腹部にリーザの手が食い込んだ。鎧のない部分を狙われ、イリーナの腹部は服ごと赤い円の染みを描き始める。

「私の与えらえた命令は、蛮族とそれに関わる者達を断罪する事。それだけよ」

「………おかしいな。お師匠様は………上手く出来たのに」

 今にも泣きそうな顔を我慢するイリーナの口元から一筋の血が流れ、顎先から滴り落ちる。

 リーザが赤く染まった腕を引き抜くと、イリーナはその場に崩れ落ちた。


「また失敗しちゃった………お師匠様………ごめんなさい」

 地面に伏した顔から見える景色がぼやけていく。

 イリーナが目を瞑ると一筋の涙が、汚れた石畳を濡らす。

「お父さん………みんな………バイバイ」

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