⑥イリーナの想い
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「アモン、イキテイルカ?」
瓦礫の中からバルバトスが上半身を起こすと、すぐ近くで下半身をレンガの布団に敷かれていたアモンに声をかける。
「おうよ………まだ手足はくっついているぜ」
両手でレンガをかき分けながらアモンも立ち上がる。鎖で編まれた下半身は比較的無事だったが、半ば裸状態の上半身の傷は確実に増えていた。
「ガキの癖に、戦い慣れてやがる」
「アア。ソレニ、チカラダケデナク、タフダ」
やや離れた所では、シドリーがツインテールの少女リーザの右頬に擦り付けるように拳を当て、そのまま地面に向かって振り下ろす。その一撃は彼女の頭で石畳を砕き、さらに弾んで大通りの樹木の幹を粉砕させた。
本来ならば彼女の一撃で頭が胴と離れ、肉片と化して石畳の色を変えてもおかしくない。だが、うつ伏せていたリーザは、すっくと起き上がると埃で汚れた鎧や服の部分を払い落し、仲間である二人の位置を確認する。
「あなた達一体何しているの!? 早くこっちに来て手伝いなさいよ!」
リーザがあからさまに不機嫌になる。まるで、足の遅い動物を待つかのように、仲間に向けて声を荒げた。
「それは難しいね、リーザ」
白髪で長髪の少年、アイレンがイリーナの叩きつける一撃を逸らすように躱す。イリーナの拳は石畳を粉砕し、泥のように土砂を巻き上げ、大きなクレーターを作り上げた。
「さすがは先輩だ。僕達に匹敵する力を持っている」
「何故戦うんですか!? あなた達はただ命令に従っているだけじゃないんですか!?」
過去の自分を思い出し、イリーナは戦いつつも、必死に彼らに訴え続けていた。教会に都合の良いように扱われ、育てられ、それが洗脳となって教会の意のままに使われている存在。その呪縛から解放されたイリーナは、彼らの意思の声を拾おうと、少ない知識で懸命に言葉を紡ぐ。
「命令に従う事の何が悪いのかが分からないよ。それが悪だというのならば、王国の騎士達も同じじゃないのかい?」
右側面に回り込んだアイレンが、イリーナの額に膝を打ち込む。蒼い装甲で守られた膝はイリーナの兜を破壊し、そのまま眉間に直撃した。
「違うよ! それは全然違うよ!」
蒼い羽飾りの兜が粉砕し、破片を地面に巻き散らしながらも、イリーナは額に赤い筋を作り、それでもと歯を食い縛って耐え抜く。
「そこに自分の気持ちがないと駄目なんです! お師匠様はそれを私に教えてくれました!」
イリーナは飛びかかってきたアイレンの膝を左手で掴むと、それを引き戻して自分の前にアイレンの顔を無理矢理持ってきた。そして右の拳を強く握ると、それを彼に叩き込む。
アイレンも咄嗟に両手を交わして顔を守ったが、両籠手の破片を散らかしながら後方へと吹き飛ばされ、城壁に穴を開けた。
「………今度は私が皆を助ける番です」
白煙と埃を舞い上げる崩れた城壁に拳を向け、イリーナが凝視し続ける。




