⑤家族の名誉に懸けて
「クライル宰相………いえバージル王より、大体の事は聞きました。貴方達が王国を裏切り、魔物と行動を共にしている、と」
ドリスがフォースィだけでなく、タイサ達も順々に睨みつける。
「成程、クライルからか………。それなら、俺達が何を言っても信じてもらえないだろうな」
タイサが困った困ったと頭を掻く。
「それで? 君は俺達とどうするつもりだ?」
「例え同じ人間であっても、蛮族と手を組む人達を許す訳にはいきません」
ドリスが自分の翡翠色の鎧に手を置く。
「人類に代々受け継がれしこの『勇者の鎧』の名にかけて、貴方達を見逃すつもりはありません」
「勇者………ですって」
フォースィの表情が曇る。
『勇者の鎧』と呼んだ彼女の軽鎧は、タイサの『魔王の鎧』と色が異なるだけで、細かい装飾部分を除けば多くの点で類似していた。それだけでなく『勇者の鎧』は街を脱出する際に王都へと運ばれており、クライルから直接話を聞かされている彼女ならば、それを身に付ける流れになってもおかしくはない。
「はい。私はウィンフォス王国の新たな王より、十三代目の勇者を拝命しました。私が蛮族達を排除し、弱き人々を導き、王国の平和を取り戻します!」
ドリスは悦に近い自信に満ちた目で頷き、改めて自分の名前と与えられた使命を口にする。
「そう………十三代目。十四ではなく、彼は十三を名乗らせたのね」
フォースィの拳が震え、魔導杖を握る手の肌が白くなる。
そして組んでいた腕を解き、彼女はタイサの前に一歩出た。
「ここは私に任せてもらえるかしら」
「フォースィ!? し、しかしお前の体じゃ!」
使える魔力も限られている。ましてや相手は学生とはいえ勇者が使用したと言われる鎧を纏い、持ち主の能力を極限にまで増幅させているに違いない。77柱の一人を簡単に退けている時点で、それが脅しではない事を証明していた。
だがそれでもフォースィは首を左右に振り、タイサの心配を受け入れなかった。
「悪いけど、ここは譲れないわ」
歴史上は十二代まで存在した国家に認められた存在、勇者。
だが真実の数は十三人。二百年前に十三代目の勇者が存在していた。
「………十三代目は二人もいらないのよ」
勇者の妹の娘として、叔父の名誉を誰かが守らなければならない。フォースィは自分の肉親が存在しなかったと扱われた事が許せなかった。しかもクライルは全てを知った上で、故意に十三代目を彼女に与えている。それが彼女の存在と尊厳を大いに傷付けた。
「隊長、自分も残りやす」
「ボーマまでっ!?」
バツが悪そうにボーマが名乗り出る。
「俺には女の子を一人だけ置いていく事なんざ出来ませんぜ………それに、魔法使いだけじゃぁ、戦いようがないでしょうや?」
全員が生き残るための最上の策を出し続けなければならない。その上で、ボーマの提案は決して間違ってはいない。
「いいのか?」
タイサが短く尋ねる。
「任せてくだせぇ。隊長の『盾』の名前を汚す事はしません。きっかり仕事を果たしてみせやしょう!」
騎士鎧に包まれた大きな腹を大きく叩き、ボーマが笑って見せる。
「………隊長。ご無事で」
「勿論だ………お前もな」
タイサとボーマは互いの拳を当てた。
そして、タイサが走り抜ける。
「ボーマ、必ず追いつきなさい」
「当たり前ですよ、副長。俺ぁ、二人の結婚式に最前列で参加して、隊長と副長の恥ずかしい昔話で盛り上げながら、腹が割ける程食べ尽くす予定ですからね。こんなつまらない場所では死ねませんよ」
エコーもボーマと互いに笑みを交わし、タイサと共に広場を抜けていく。
バイオレットは小さくボーマとフォースィに会釈すると、二人を追いかけていった。
「………本当に良いの? 今なら追いかけられるわよ」
三人の姿が見えなくなり、フォースィが肩をすくめてボーマに冗談を飛ばす。
ボーマは肩に背負っていた大鉄球を地面に落とすと、石畳を砕きながら汗で濡れた前髪を勢いよく払った。
「なぁに、女の子を守るのは騎士の役目ですから」
ボーマは白い歯を見せて笑っているが、彼の頭からは汗は飛び散り、石畳に染みを作っている。
「………お礼はしないわよ」
「え、嘘っ!? あ、いや………も、勿論、騎士は見返りを求めないっすよ。あは、あははははははっ」
わざとらしい笑いで下心を隠そうとするボーマだったが、何一つ意味を成していなかった。
「別にもう騎士じゃないんだから、いちいち気にしなくていいのに………」
「し、しまったあぁぁぁぁぁ!」
自分が既に騎士ではなかった事を今更思い出し、ボーマは大鉄球に寄りかかるように膝を折る。
「でもまぁ………生きて帰れたら、食事くらい付き合ってあげるわ」
フォースィの蚊の鳴くような声に、ボーマは即座に立ち上がると、大鉄球を抱えてドリスへと飛び込んでいった。




