③弟子の覚悟
「………イリーナはどうするの? 完全に出遅れたみたいだけど?」
「うっうー! お師匠様は小さくなっても意地悪です!」
平たい胸に両腕を集め、イリーナが涙目でフォースィに訴えている。
「行きます………行って話をしてきます」
鼻をすすり、イリーナは涙を拭う。
「そう………なら、私も―――」「お師匠様は駄目です!」
残ろうと言いかけたフォースィを、イリーナが大きな声で止めに入った。
今までにない反応だった。
思わずフォースィが口を小さく開けたまま驚いている。
「気付きませんでしたか!? さっき門の上を飛び越えていった人がいます!」
イリーナの言葉に、フォースィだけでなくタイサ達も街の中心に顔を向けた。だが既に気配はなく、抜けてった正体も分からない。
「へぇ、流石は僕達の先輩だね。多重にかけていた隠密魔法の存在に気付けたなんて」
シドリーの一撃で地面に沈められたアイレンが両手を使って起き上がる。彼の顔からは石の破片が落ちていくが、その肌に傷はなく、鎧にも埃が付いた程度にしか汚れていなかった。
「でもこれで、僕達の『お務め』の半分は終わったね」
「何言っているの。残りの半分も終えて、さっさと帰るわよ!」
アモンやバルバトスの一撃を受けて止まっていた二人も動き出し、まるで何もなかったかのように攻撃を受けた場所を手で払う。
「お父さんっ!」
唐突にイリーナがタイサの体に抱き着いてきた。
「い、イリーナ。いきなりどうしたんだ?」
「何でもない! 何でもないけど、ご挨拶!」
互いの鎧が人肌の温もりを分け隔てているが、タイサは突然の事に驚きつつも、イリーナの言葉を受け止める。
彼女は満面の笑みでタイサから離れると、周囲の大人達に一礼する。
「こういう時は………お世話になりました? って言うんだっけ?」
「何言ってるのよ。縁起が悪い」
フォースィがイリーナの頭頂部を魔導杖で殴る。
「杖は痛いです。お師匠様」
「全く………成長しているんだか、お馬鹿になっているんだか………困ったものね」
腰に手を当てて鼻で空気を吐き出すフォースィ。
「………イリーナ」
フォースィは目線の近くなった弟子の顔を見つめると、小さくなった手で彼女の頭を撫でた。
「全ての『断罪』を許可するわ。その代わり、必ず私の所に帰ってきなさい」
「はい! 行ってきます!」
イリーナは歯を見せるような満面の笑みを見せ、踵を返して走り去っていった。
フォースィもすぐに振り返り、イリーナに背を向ける。
通り過ぎ様に、タイサの右腕を竜の彫刻が飾られている魔導杖で何度も叩いた。
「………あなたも気を付けなさい。エコー、このろくでなしから一時も目を離さない事ね」
「分かってます」
エコーが力強く頷く。
「さぁ、行くわよ」
フォースィが街の中心に向けて歩み始める。




