①魔都
ブレイダスの防衛戦から、左程日は経っていなかったが、死んだ街は誰もが思っていた以上に寂れていた。
二百年前は、カデリア王国の中心でもあったブレイダス。戦争に敗れて大きな街として復興し、観光名所として、また商業も農業も栄えた美しい街として再出発したが、人のいなくなった街は反ってその大きさや華美な街づくりが不気味に、そして空しく流れてくる風と共に、タイサ達に訴えかけてくる。
風や街が人を求めていた。
「まるで死の囁きね」
フォースィが開きっぱなしになっていた東の大正門の真下、筒状の構造故に風の強くなる場所で、髪を耳元で押さえながら、久々に戻ってきた街に目を向けて目を細めた。
比較的戦闘の少なかった東の大正門は無事ではあったが、その門はあの日以来、入る者を拒んではいないようである。
「使い方が分からない………って訳じゃないんでしょうが。こいつはぁ確かに不気味ですな」
上がり切った鉄上柵を見上げ、ボーマが心配を払拭させるように笑って見せた。
「大魔王様からの伝言です。『武運と悪運を祈る』と」
「悪運と来ましたか。まぁ、幸運だけでは足りませんし、それすら総動員しないと生きて帰れないという意味でしょう」
割り切った笑みでエコーが返す。
最低限の言伝だけを残し、ケリケラは無言のまま主の元へと飛び去っていく。本来であれば数時間はかかる距離を彼女の魔法により速度を上げ、僅か数十分程度で到着出来た。魔王軍や騎士団との戦いの音はここまで届いてこないが、大魔王の側でも戦いが始まっている頃でもある。
「この街で互いに戦った者同士が、今度は協力して戻って来るとは………感慨深いというべきか、上手く言葉が見つからないな」
「俺達の昔だって、似たようなもんだったろ?」
シドリーが白銀の斧を肩に背負いながら周囲を見渡している。アモンは破損した左右の籠手を破棄して石畳の上に落とす。
「しかし、敵がいません」
バイオレットが城壁の上にも敵の姿見えないことを報告する。
「ご飯の時間でしょうか? あてっ」
「そんなわけないでしょう」
イリーナの言葉のすぐ後に、頭頂部にフォースィの拳骨が落ちる。
「………単に、守る必要がないからよ」
「ああ、そうだろうな」
それだけの自信と実力をもった者が待ち受けている。フォースィの言葉にタイサが頷いた。
「………ナニカガ、クルゾ」
バルバトスが何かの気配に気付き、街の外に顔を向ける。
既に勘の鋭いイリーナも目を大きくしてバルバトスと同じ方向を見ていた。




