⑨最後の旅へ
「兄貴………」
無意識に呟くカエデの頬に、一筋の道ができる。
「そういう訳だ。ギュード、後は頼む」
「………お前はいつもこれだ。自分が被ればいいと思ってやがる」
タイサの言葉に、ギュードはタイサの頬を殴りつけた。
「頼む」
「自分勝手もいい所だ。請求は………タイサ、お前宛だからな。間違っても妹に払わせるんじゃねぇぞ?」
ギュードが気絶したカエデを受け取る。
「あぁ、その内払うから、ツケておいてくれ」
「駄目だ、お前のその内は当てにならない。定期的に王都の教会とギルドに足を運んで確認してやる………妹《この子》と一緒にな」
それ以上は何も言わず、握手も交わさず、ギュードは乗って来た飛竜で飛び上がって行った。
「………ボーマ。俺はずるい人間だ」
多くの仲間や友人が死を避けられない覚悟の中で戦いつつも、自分の身内だけをこの戦場から逃した行為に、タイサが自嘲する。仮に生きて帰ったとしても、妹は泣きながらきっと自分を恨むだろう。タイサは付き合いの長い戦友に言葉を求めた。
「真面目に答えた方が良いですかい?」
かつてルーキーを失った朝の会話を思い出し、ボーマが重たい頬を吊り上げる。
「馬鹿垂れ、それで十分だ」
本当にそれだけで十分だった。タイサは彼の一番の言葉を受け止め、鼻で笑う事を彼への感謝とした。
タイサは自分の右肩を左手で掴む。
既に肩から先の感覚はない。体全体を通じて押されている認識はあるが、肌のどの辺りを触れられているかまでは分からない。
だがそれでも右腕は脳の命令を受けて動く。タイサにとっては、右腕そのものが体から分離しているような不思議な感覚だった。
「さぁ、時間が惜しい。行くぞ」
タイサは全員に出発を指示した。




