⑧さいごのわがまま
「残った飛竜に、俺達とフォースィ達が乗り、大魔王は独自に行動する」
タイサの確認に全員が頷いた。
「おい、俺の事を忘れてないか?」
ギュードが顔を引きつらせながら親指を自分に向けていた。
「ああ、そうだったな。悪い悪い………ワザとだ」「ぶっ飛ばす」
いつもと逆の立場にされたギュードが目の下を痙攣させ、舌打ちする。
「ギュード。お前には、頼みたい事がある」
「依頼か? いいぜ、ダチのよしみで三割増しで受けてやる」
後頭部に両手を回し、ギュードは立場を戻そうと大袈裟な条件を提示してみせた。
だがタイサは彼の冗談に返すこともなく顔を左に向け、横で立っている妹に視線を降ろす。
「………カエデを頼みたい。こいつをデル達の下に、落ち着いたら王都に送って欲しい」
「なっ!」「あ、兄貴!」
ギュードとカエデが同時に声を上げた。
彼女は兄のタイサに向き合うと両手を広げ、顔一杯の不満と不安が混ざって怒り出す。
「兄貴! ここまで来てそれはないよ! 私も最後まで戦う! 一緒に連れて行って!」
「駄目だ」
対称的にタイサが静かに首を振る。
「悪いが、ここから先は素人冒険者はお断りだ。それに………運べる定員は限られているからな」
あからさまな嘘。誰もが分かる言い訳だったが、それを指摘する者はいなかった。
「兄弟揃って死なれたら、俺は親父とお袋に顔向けが出来ない。分かってくれ」
「嫌だ! 私も一緒に行くんだ! ふざけるな馬鹿兄貴!」
カエデが顔を赤くし、目に涙を浮かべながらタイサの胸当てを何度も叩き始める。
タイサは最後の家族である妹の一打一打に、全てが込められている事を理解し、受け止めつつも、それでも冷徹に相手をしなければならない苦悩に耐え続けた。
「すまんな。兄ちゃんの最期の我儘だ」
「最後って言うな! 兄貴の馬鹿馬鹿馬鹿!」
体を揺らされながら、タイサは右手をカエデの肩に置く。
その時、カエデは兄の袖と籠手の隙間から見えた肌の色に言葉を失い、瞳がしぼんでいく。
「兄貴………その腕、え………その色、何? これじゃぁ、まるで―――」
最後の言葉を言い終える前に、カエデは力尽きたかのように倒れ、タイサの腕に寄りかかった。
「すまないな、エコー」
「いえ………今の隊長の腕では、そもそも力加減が難しいでしょうから」
両手に付いた『杭打ち』と黒く染まった片腕に目を向けたエコーが、小さく笑みを浮かべる。




