⑥フォースィの誤算
「………タイサ、いくつか伝言があるわ」
フォースィは大魔法の詠唱中に、湧き出るドワーフの群れの中から77柱の一人であるアーガレストが現れた事、そしてデルやケリケラ達によって倒された事を伝えた。
そして大魔法を放った後、デルや王女達騎士団とギュードの付き人のクロムが、大きく西に迂回して貴族派の王国騎士団、その司令部に向かった事を告げた。
タイサは、デル達の目的と覚悟を受け止めると、『そうか』とだけ答える。
「アーガレスト。確か目標の一人だったな」
タイサの言葉に、疲労がやや取れたシドリーが頷く。
「しかし、よく倒せたな?」
フォースィが魔力を充填して動けない中、幹部級を倒せた事に、タイサが素直に驚いた。
「ええ………でも」
「いや、すんません。ここからは自分に話させてくだせぇ」
フォースィの言葉を太い腕が遮り、ボーマが真面目な顔で二人の間に割って入る。
「隊長………ジャックがやられました。別れる直前まで、瘦せ我慢で笑って見送ってくれやしたが」
無限に湧き出るドワーフ達、そこから現れたアーガレストと戦っていたデル達だったが、アーガレストが魔力を充填していたフォースィを脅威と判断して狙い、そこをジャックが身を挺して守ったのだという。
「そうか………」
短く答えたタイサは、左手で自分の胸元を強く掴むと大きく息を吸い、漏れそうな感情を息と合わせて押し留めた。
デルの騎士の半数もジャック同様に戦いに参加できなくなり、彼等は魔法陣周辺に残さざるを得なかったと、ボーマから報告の続きを受ける。
用意した物資の殆どを失い、大魔王のいない中では魔法陣を使った帰還も叶わない。そのような状況で残された負傷した者達の心境は計り知れない。
「だが今の俺達に、後ろを振り向く余裕は………ない」
「ういっす。ジャックも同じ事を言ってましたよ」
戦地に足を付けた以上、止まる事は許されない。魔法陣を潜った者達は既に覚悟を済ませている。
タイサは目を細めて、小さくなったフォースィに目を向ける。
「その姿………昔を思い出すな」
「………え?」
急に話を振られたフォースィが珍しく驚いた。
「昔、教会の前で倒れていただろう? あの時は……そう、もっと小さかったな、これくらいだったか?」
タイサが手を胸の下まで下げて当時の高さを表現する。
「ど、どうしてそれを?」
フォースィが口元を左手で覆う。
魔力を失い、気を失った彼女が身分を偽って過ごしたスラム化した教会での記憶、それはフォースィが旅立つ際に、全て封じたはずであった。
だがタイサは、『お前は大事な事が時々抜ける』と乾いた笑いを彼女に見せる。
「呪いの効かない俺には、記憶封じの魔法も左程効果はなかったという事だ………周囲の様子から、俺は数日の内に気付けたが、敢えて口にしなかっただけさ………何だ、本当に気付いていなかったのか? 何なら俺がお前に付けてやった名前を言ってみようか? サク―――」
「い、言わなくていいわよ!」
フォースィの両耳が赤くなり、小さな両手でタイサの口を隠そうと必死になって飛び上がる。
「本っ当に、最低ね!」
腕を組み、高まった心臓の鼓動を誤魔化すようにフォースィが背を向けて吐き捨てる。
「よく言われる。だからという訳じゃないが、これ以上、無理するなよ? お前の命はジャックが守った命だからな」
「………気を付けるわ」
彼女の肩の力が自然と抜けていく。




