④大魔王の力
「………凄い」
光のとおった道筋を見たエコーが、無意識に言葉を漏らした。
巨大な光が通過した部分は地面を溶かし、正面の魔物達は肉片すら残っていない。
「ホーリークロス。かつて二百年前に生み出された、光の殲滅魔法だ」
大魔王が自分事の様に頬を緩ませ、後方へと顔を向ける。
「退路も出来たようだ」
前方と同じく、収束された光が通り抜けた後方も、粘土をくり抜いたように魔物達の姿がなかった。
運良く光から逃れた魔物達は、立て続けに起こされた大規模な攻撃に戸惑い、足を震わせ、その進軍を止めていた。
「よし、脱出する!」
タイサもまた振り返り、盾を振り上げながら後方へ抜けるように指示を出した。
「おいおい魔王様! そっちは貴族とやらの騎士団達がいる方じゃねぇか!」
逃げるなら方向を間違えている。興奮が隠せないまま、アモンが両手を広げて大袈裟に声を出す。
だが、タイサは首を左右に振った。
「いや、間違っていない」
タイサが先行して走り出す。それにエコーが続く。
「このまま、新生派の魔物達を貴族派にぶつけてやる」
撤退を始めていた貴族派の騎士団を、再び挟撃させる状況に戻す。タイサは自分達を追撃する魔物達の対処を貴族派の騎士団に任せようとした。
―――――――――
混戦というよりは乱戦に近い状況であった。
光の一撃は、シドリー達とは別の魔物達と衝突していた貴族派の王国騎士団をも背後から焼き払っていた。
結果、貴族派の騎士団も一部で混乱が生まれ、情報や隊列の連携がとれなくなっていた。
「進め! とにかく奥へと進むんだ!」
巨大な一撃で作られた道をタイサ達が走り抜ける。貴族派の騎士達もタイサ達の姿は視界に入っているものの、仲間の救助や右往左往する魔物達の対処に手一杯であり、何とか対応しようとタイサ達に向かった騎士達は、タイサ達を本能的に追いかけてきた魔物達と鉢合わせし、強制的に戦闘が発生していた。
青い発煙筒が、少し先に落とされた。
上空にいるギュードが、タイサ達が走るべき方向の目印を作る。敵の少ない空間を優先して発煙筒が落とされているが、時間と共に、くり抜かれた隙間は埋まりつつあった。
「もう少しだ!」
ついに貴族派の騎士団を抜け切った。
「隊長! 正面に新生派の魔王軍!」
エコーの報告で、タイサは苦虫を噛む表情に変わる。
光の一撃は、別動隊の魔王軍までには流石に届かず、騎士団と相対していた魔王軍に突破できる隙間はなかった。
「どうする!? このまま横へ反らすか?」
「駄目だ! 二軍の間を抜ける程の余裕はない!」
シドリーの案をタイサが却下する。
そこでタイサは、大魔王の顔を見上げた。
「良いだろう。お前達はそのまま走り続けるがいい」
殿を務めていた大魔王は地面を一度蹴ると、タイサ達の上を簡単に通り過ぎ、十分な距離を開けた前方で着地する。
「―――空を穿つ、大地の塔よ」
着地した大魔王の右の爪先から、小さな魔法陣が地面に向かって展開する。すると、地面が時計塔のような高さまで盛り上がり、その塔は波となって次の地面を盛り上げていき、奥へと続いていった。
盛り上がった地面の直線上にいた魔物達は、まるでひっくり返したテーブルに乗っていた食器や食物のように散逸し、波が静まるとそこには何もない綺麗な道が出来上がる。




