③地平線からの光撃
前後左右。全ての方角から魔物達が押し寄せる。地響きを立て、地面の小石が不規則に踊り始める。
武器を掲げた魔物達がシドリー達に迫ってくる。
その時―――。
シドリーの足元に、葉巻程度の紙でできた筒が落ちてきた。既に紙筒からは煙が噴き出し、シドリー達の視界を半分程覆い始める。
色は青。
「―――っ!?」
シドリーは、すぐさま両隣のアモン達に声を浴びせた。
「伏せろぉぉぉっ!」
咄嗟に腰を屈め、シドリー達は地面に両肘を当てるように伏せる。
瞬間。
シドリー達の周囲で巨大な爆発が連続する。時間差で起き続ける爆発の一筆書きがシドリー達の周囲を囲み、近くにいた魔物達は爆発やその衝撃で吹き飛ばされた無数の石によって体を貫かれて倒れ込んでいく。
「間に合ったか!」
シドリーの正面に、重装備の大盾を両腕に備えたタイサが着地する。
続いてエコーも地面に足を付け、タイサと共にシドリー達の前後を固めた。
「………魔王様?」
「おうよ! 助けに来たぞ!」
目を大きくさせながらシドリー達が立ち上がる。
爆炎が風で流れ始め、爆発でできた溝の前後では誰かのものだった肉片が散乱し、奥では突然の出来事に戸惑った魔物達が足を止めていた。
「タイサ!」
黒と白の服を纏った盗賊風の男、ギュードが空から叫ぶ。
タイサが安全を確保したと、彼に向かって手を挙げる。
「こっちは大丈夫だ! 予定通り空の敵を牽制しつつ、退路を探してくれ!」
「無茶苦茶だ! どこもかしこも敵だらけだっつぅに! 見るまでもねぇ!」
愚痴を声高に叫びつつも、ギュードは高度を上げて空から迫るバードマン達を迎え撃つ。
「それで、余はどうすればよい?」
「だ、大魔王様まで」
シドリーの目がさらに大きくなる。タイサの隣では漆黒のマントに緩みのある服を纏った大魔王が、自分の手首をもう片方の手で掴みながら周囲を遠くまで見渡す。
タイサは簡単な事だと大魔王の顔を見て口元を緩めた。
「包囲を突破してから、ここぞという時にケツを持ってくれればいい」
「ふ、良いだろう」
大魔王が小さく笑みを零す。
「しかし突破といってもどこに、そんな隙間がある? 仮に突破できたとしても、こちらには追撃を振り払う力もない」
戦力のほぼ全てを失ったシドリーがタイサに意見する。彼女の意見を広げ、さらに追撃を免れたとしても、後方で待つデル達騎士団だけでは、二千近い魔物達を迎え撃つ事も出来ない。それは確かな事実であった。
「何も、戻る方向だけが突破先とは限らないさ」
タイサが空を見上げると、バードマンを確実に一匹ずつ短剣で仕留めているギュードが、隙を見てタイサ達が飛んできた方向とは真逆の方角に向けて赤い発煙筒を投げ放つ。
「準備もできたようだ」
飛んできた方向から上がる青い煙の柱を確認したタイサが、シドリー達に振り向く。
「いいか! 絶対に俺の後ろから体を出すなよ!」
「皆さん! 隊長の体を後ろから支えてください!」
エコーが、事情を把握できていないシドリー達をタイサの背中に無理矢理誘導しながら叫ぶ。
一体何が起きるのか。
シドリーやアモン達は訳が分からないまま、しかし意見する余裕もなく両腕を曲げて大盾を前面に構えるタイサの背中の後ろで膝を曲げ、タイサに隠れるように一列になって姿勢を硬直させた。
「―――来るぞ」
大魔王が顎を上げて地平線を見る。
瞬間、タイサ達は光の筒に包まれた。
包囲する魔物達、その背後から何かが光ったと感じた時には、既に目を開けていられない程に眩い世界に身を置いていた。
「耐熱、耐閃光障壁は順調に展開中だ」
暴風が耳の横を擦り過ぎる時に聞こえてくる大きな雑音の中、どこからか大魔王の声だけが明瞭に聞こえてくる。
「ま、魔王様! これは一体!?」
「話は後だ!」
光に押し込まれるように、少しずつタイサの体が後ろへと引きずられていく。シドリーはエコーの言っていた意味をようやく悟り、タイサの背中を支えようと懸命に足腰に力を入れ続けた。
「こいつぁ、予想以上の一撃だ!」
展開する両腕の大盾が振動し続ける。直撃を避けるよう、やや光が左右に逸れるように傾けた分、反って力が入り辛くなっている状況に、タイサは歯を食いしばった。
光に包まれること僅か五秒。そのたった秒単位の時間が、分単位に感じられるような疲労感に、タイサ達は大きく息を吐き、膠着させた姿勢を元に戻す。




