⑨蝋燭という名の病
「お前の杭打ちが壊れたと聞いてな、その情報を基に、トリーゼに作ってもらった」
「………すげぇ」
優秀な装備は、それを求める者から見れば、一目惚れのように互いを引き合わせる。新しい『杭打ち』は、以前と比べて盾の面積が七割程に減っていたが、左右の盾を正面で合わせれば隙間のない大きな一枚の盾となる事がタイサにはすぐに分かった。
ギュードが鼻を高くして指を振り、話を続ける。
「以前は同時に二つ使う事を考えていなかったからな。タイサが使い、壊れるまでの過程を彼女に伝えて改良を施してもらった………あと、ほら、あから様にもう一つあるだろう?」
ギュードが盾の前後の杭に指を当てる。
「前後に杭が打てる。引き金は人差し指と中指の二つだ。これで背後に回られても攻撃が可能になる」
使っている素材は全て特級品だと言い。この盾が壊れるなら、この世のどんな防具でも耐えられず、この杭が壊れるならば、どんな攻撃も通らないとギュードが言い切った。
「加えて魔法防御も王国随一だ。驚け、この武器だけで街が一つ買える」
「………とんだツケになりそうだ」
頬を緩ませながらタイサはエコーを呼び、杭打ちの装着を頼む。既に右手を侵食する黒い影は手首を越え、肘との中間まで伸びている。
「タイサ………お前、まさか」
案の定、エコーに手伝ってもらっている中でギュードの視界に黒が入る。いつもの飄々とした彼の顔つきが溶けていき、声を上げる事なく、タイサに向けて目を細めた。
「………他の奴らには言うなよ?」
タイサがエコーを呼んだ事で、ギュードは、この事実を知る者がこの三人だけだと悟る。
「言えるかよ………こいつぁ『蝋燭』だ」
ギュードは惜しげもなく知っている事を話し始めた。
―――蠟燭病。
呪いを受けた者。又は、呪いの装備を身に着けた者に現れる症状の一種である。徐々に呪いの影響を受けて体を徐々に蝕まれ、やがて死を迎える。時間と共に短くなっていく『蝋燭』に似た事からそう呼ばれるようになった。
そして言葉通り、一度火が点いたら、全てが無くなるまで燃え続け、やがて消える。
その症状の速さを決める条件も、直す手立ても、未だに分かっていない。
「そうか………流石にギュードは、情報通だな」
概ねそういう事だろうと考えていたタイサが、自嘲する。
「馬鹿野郎、笑っている場合か!?」
「だが、止まらないのだろう?」
ならばこのまま前を向いて最後まで足掻き続けるしかない。タイサは炎が燃え尽きる最後まで、自分の意思で生き続けたいとギュードを見た。
「馬鹿野郎が。お人好しもここに極まれりだ」
「照れるな」
「………褒めてねぇよ」
ギュードの背後から飛びかかったドワーフの首が真下に落ちる。彼自身は動いていなかったが、勝手に首が落ちていた。見えない動き、知覚できない攻撃。
彼の『影撃』の二つ名は伊達ではなかった。




