⑤誤算
「少し待て………」
そしてすぐに右頬を吊り上げる。
「成程。随分と予想外の展開になっているようだ」
そう言うと、大魔王はタイサに体を向け、小さく両手を広げて見せた。
「どうやら、先行したシドリー達が、新生派の片翼に半包囲されている」
「なっ!」
堂々と呟いた大魔王の声に、タイサは即座に彼の胸倉を掴んだ。
「お前! 気付いていたな!?」
思えば空を飛べるケリケラの姿がなかった。その事にもっと早く気付くべきだったとタイサは苦虫を口から溢れんばかりに放り込んで噛んだような表情を浮かべると、自分が大魔王の手の平で胡坐をかいていた事への怒りも相まって本人にぶつけていた。
「何を勘違いしているか知らないが、この戦争は貴様達の時代で起きている事で、ここの指揮官は貴様だ。ここにいる誰よりも力があったとしても、余はただの黒子にすぎぬ。力を持つ者を有効的に使えなかった責を、余に押し付けられても困る」
「くそっ!」
タイサは大魔王の服を強く握ると突き飛ばすように押し込み、すぐに手を離した。
大魔王の主張、自らの立場と責務、そしてこの状況に気付けなかった自分への怒りが入り乱れて、タイサの呼吸が荒くなる。
「早く決めないと、彼女達は全滅するわね」
「隊長、どうしますか?」
フォースィがタイサを急かし、エコーがタイサの背中に手を当てる。タイサは昂る感情を空を仰いで四散させ、深呼吸を繰り返しながら額に手を置いた。
新生派の魔王軍に半包囲されれば、一千程度のシドリー達では脱出すら難しくなる。
「大魔王! 王国騎士達の動きはどうなってる!?」
頭を切り替える。
とにかく使える情報は全て手に入れる必要があった。
「………撤退せずに新生派の魔王軍との戦闘を継続している。どうやら王国騎士団は敵の両翼を各個撃破出来ると判断したようだ」
「最悪だ」
タイサの予想が根底から覆される。嫌がらせに近い千程度の集団は無視され、数の多い貴族派の騎士団に全力を注ぎにいくだろうと考えたが、それが甘かったと証明される。
「隊長! このままじゃぁシドリーの姉さん達は全滅っすよ!」
「分かってる………だが」
タイサの手元の兵力は無いに等しい。
「タイサ、何があった」
異変に気付き、騎士達と共に支度を整えていたデルとバイオレット、そしてアイナ王女がタイサ達に合流する。




