②終わりの始まり
「戦場まで、歩きで三十分程度といった所ですかね、隊長」
「そうだな、俺もそれ位だと思う」
遠くを見据えるボーマの予想に、耳から手を離したタイサが頷いた。
すぐさま大きな地図が地面に広げられ、ケリケラによって戦況が報告される。
「一時間前に、新生派魔王軍の横列に対し、騎士団は紡錘陣で衝突しました」
陣形だけで判断すれば、横列に対して一点突破を狙いにした紡錘陣を選択した王国軍が有利と解釈出来る。だが、上空から偵察できる新生派魔王軍が、敢えて不利な横列で対応した事は当然疑問として話題に上がる。
「やはり、誘いに来たか」
タイサが唇を親指でなぞる。案の定、最初の横隊は槍すら持たされていなかった蛮族の集団だったとケリケラによって補足される。
そして聞こえてくる高く短い音をタネガシマの音とするならば、騎士団は敵の第一陣を突破し、第二陣に食い込んだ事を意味する。
「………王国騎士団の先頭は?」
「赤と青い鎧の騎士達だったよ」
デルがケリケラに尋ね、すぐに彼女がその問いに答える。
「赤虎騎士団と青獅騎士団ですね」と、バルデック。
「戦闘経験のある騎士団が先頭ですか。一応は考えているようですが、そもそも損耗の激しい騎士団を矛の鏃にして、どこまで維持出来るか」
フェルラントが主観における疑問を込めて答える。
「だが、方針に変更はない」
タイサがこれ以上議論する時間が惜しいと、会話を切った。
「シドリー」
タイサが魔王軍の司令官を呼び出す。彼女はタイサの前で小さく頭を下げると、タイサの言葉を待った。
「予定通り、魔王軍を使って新生派の後背を突く。突撃の指示は上空にいるフォルカルの合図を待て」
「分かりました」
それ以外の者達は、撤退するシドリー達の援護としの後詰となる。タイサは今一度周囲の者達に声を上げ、各々の役割を確認するように指示を出した。
「精鋭中の精鋭たる魔王軍の猛者達よ!」
振り返るシドリーが右手で白銀の斧を高く掲げ、整列している魔物達に声を震わせる。
「これより我々は、魔王様に反旗を翻す愚かな者達に白銀の一撃を放つ!」
既に千にまで数を減らしていたシドリー率いる魔王軍。だが、幾度と激戦を生き抜いた彼らの士気は高く、並ぶ列は規則的で、持っている武器の角度は無意識に揃えられていた。
「敵は多勢! 我らは少数! だが、恐れることは何もない! 我ら栄えある77柱が諸君らの先陣となり、道を切り開く! 敵の背中に一生残る大きな傷跡をつくってやろう!」
一見無謀な精神論を掲げつつも、自らが範となり先陣を駆ける。強者としての責務を示してきた姿勢が、今日までの魔王軍を作り上げ、その実績が精神論を実現可能な要素として昇華させる。
魔物達はシドリーの言葉に共感し、一斉に武器を掲げて声を張り上げた。
「出陣!」
振り下ろされたシドリーの白銀の斧が進むべき方向を導く。その方向に合わせて、千を越える魔物達はシドリーとアモン、そしてバルバトスを先頭に行軍を始める。
「それでは、我々も出発します」
行軍を始めた魔物達の傍らで、軍師のイベロスが胸に手を当ててタイサに頭を下げると、傍で待っていた獅子ブエルにまたがった。またバードマン部隊の長を務めるフォルカルも額のゴーグルを降ろしてタネガシマを持つ手を上げると、百五十のバードマン達が一斉に青空へと羽ばたいた。
「………頼むぞ」
タイサは姿が小さくなっていく彼らの背中を見上げながら、作戦の成功を祈った。




