①バースバルデ平原
バースバルデ平原は、シモノフの大関所跡から大都市ブレイダスに続く複数の道の中で、最短の中央を走る道の左右に広がる大平原である。シモノフ側はやや乾燥した岩肌が目立つが、ブレイダスに近付くにつれ温暖で肥沃な大地へと変わり、岩肌は草原に、草原は黄金色の麦畑へと姿を移して旅行く者達の目を楽しませる。
その大平原が、互いの存亡をかけた大戦場へと変貌したのは、実に二百年ぶりであった。
「本当に一瞬か。目を開けたらもう別の場所とか………割り切らないと混乱しそうだ」
巨大な魔法陣に乗っていたタイサは、数秒としない内に視界が変わった事に戸惑いを見せつつ目を擦り、自分に冗談を言い聞かせる。
「この魔法陣は………我が魔王城の大広間にある文様と随分と似ている気がする」
シドリーは魔方陣の線上をまたぎながら周囲を確認し、ふとした事に気が付く。
「もしかしたら、同じ方法で故郷に帰れるかもな」
アモンが『それは楽で良い』と冗談交じりに空に向かって笑った。
「………ここはどの辺りでしょうか?」
王女がデルに声をかけ、デルはバルデックから地図を預かり位置を確認し始める。王女は純白のドレスではなく、動きやすさを追求した白い長袖と生地に余裕のある長ズボンを選んできた。身分として恥ずかしくない最低限の金銀の刺繍の入った装飾は、まるで舞踏会で踊る男性貴族のような身だしなみである。さらに腰に帯剣し、戦いにも参列出来る意思を併せもったかのような服装であった。
「恐らくバースバルデ平原のど真ん中、街道からやや離れた場所だと思います」
「概ね合っている」
デルの答えに、魔方陣の中央から歩き出した大魔王が空を指さし、先に向かっていたケリケラの帰還を迎えた。
「ご苦労だったな、ケリケラ」
「いえ、お迎えが間に合わず、申し訳ありません」
大魔王の労いにケリケラは謝罪で返すと、最後に何度か大袈裟に羽ばたいて落下の速度を緩め、丁寧に足を地面に降ろす。
「戦場を確認してきました」
―――戦場。
つまり、貴族派の王国騎士団と新生派の魔王軍は既に戦闘状態にある事を意味していた。
タイサ達が耳に手を当てて意識を遠くの空に向けて集中させると、草葉の擦れる音に混ざって空を弾くような高く、短い連続した音と金属が同士が衝突する音が僅かに聞こえてくる。




