⑫幼馴染の葛藤
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「そっちはどうだ? フォルカル」
自慢の爪、赤黒い手甲を磨き終えたアモンが胡坐をかきながら手甲に息を吹きかける。そして洞窟の奥から戻ってきたバードマンのフォルカルに『おう』と景気よく声をかけ、軽く手を上げた。
「問題ない。洞窟内の部下達も概ね休息に入った」
フォルカルが通って来た道を半分程、振り返る。
「………コチラモ、オワッタゾ」
逆方向から銀色の魔物。顔のない人口金属生命体のバルバトスが合流する。
「それで? ここにいないうちの軍師は?」
アモンの首が左右に動く。
「先程、司令官に呼ばれた。恐らく明日の確認だろう。最後の最後まで、我らの司令官は慎重のようだ」
フォルカルが両手を軽く上げ、見えない天井に掌を向けた。
だがアモンは彼女の名前を聞くや動きが鈍くなり、彼の軽口に何も返さず、考え込むように床岩の一点を見つめ始めた。
「………アモン、今日位そっとしておいてやれよ?」
「ま、まだ何も言ってねぇだろうが!」
アモンが歯切れ悪く、素早く顔を上げる。
フォルカルは先のゲンテの街の戦いを思い出し、その上でアモンに声をかけた。彼の弟は戦闘の中で負傷、生きてはいるが精神を消耗。兄は、カエデと共にその手で決着をつけてしまっている。
「オセ ノ コトカ」
「だから………何も言ってねぇって」
バルバトスにまで見抜かされ、アモンが舌打ちをして口を尖らせる。
「ただ、あいつにこれからどう接してやればいいのかと思っただけさ」
シドリーは単に姉妹を失っただけではない。この戦争で、四人姉妹を悉く失った。しかも、それが自分の指揮していた軍の中で起きている。誰を責めようにも転嫁する相手がいない。フォルカルは自分の比ではないと、普段のような軽い口調を封じ、悲しみを込めた真剣な表情で言葉を吐く。
「アモン。カノジョナラ ダイジョウブダ」
バルバトスがアモンの肩に手を置いた。
「………そうだな。俺もそう思う事にしよう」
アモンが自分に言い聞かせ、割り切ろうと立ち上がる。
そして自分の手の平に拳を当てて音を洞窟内に響かせた。
「俺はあいつの剣と盾だ。難しく考える必要はねぇ………ああ、それだけでいいんだよな」
「どう見ても、司令官の方が強いと思うんだが………あてっ」
フォルカルの額に小麦程の小石が当たる。
「細けぇことはいいんだよ!」
「ソウダナ。ソレコソ、アモンダ」
「いや、それも褒められた気がしねぇ」
アモンの頬が緩むと、バルバトスがすれ違うように歩き始めた。
「おい、今時どこ行くんだよ」と、アモン。
「シレイカンニ、コエヲカケテクル」
バルバトスが片手を上げ、顔の横で二人に『それじゃぁ』と挨拶する。
「はぁ!? お前、さっき『そっとしてやれ』って」
「ソレヲイッタノハ、フォルカルダ。ワタシハ、ワタシノヤリカタデ、ドリョクシヨウ」
バルバトスが堂々と歩き始めた。
「おめぇ、汚ねぇぞ!」
アモンがバルバトスを指さし、大きく口を開けた。
「やっぱり、決戦前の一声は大切かもしれないな」
フォルカルも口を覆うように手を当てると、笑いを隠すようにバルバトスとは反対側からアモンの横を通り過ぎる。
「いやいや、それは………それはねぇってよ!」
怒りと呆れ、そして苦し紛れに笑うしかないアモンが顔の前で手を左右に振って二人の行動を恨めしそうに見つめた。
バルバトスとフォルカルが同時に足を止めて振り返る。
「それじゃぁ、お前も来るか?」
フォルカルが手を伸ばした、
「分かった! 分かぁぁったよ。行けばいいんだろう? 行けばよぉ」
ヤケ気味になったアモンが足を大きく、故意に広げながら踏み出し、力強く先頭を歩き始めた。
「ソレコソ、アモンダ」
表情のないバルバトスの顔の一部が窪んだように影をつける。




