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lost19 虚構の歴史、真実の物語  作者: JHST
第三章 それぞれが描く未来
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⑫出発前夜 ~カエデの悩み~

「成程、この戦いが終わったらの話か………」

 ボーマとジャック、そしてカエデの三人は、青白い壁に横並びになって体を預けながら、遠く見えない天井を眺めた。


 彼女は、戦いが終わった後の居場所について、二人に悩みを打ち明けたのである。

「兄貴はあの時言ったように、どこかの街でエコーさんと静かに暮らすんだと思います」

「なら、カエデさんも一緒に暮らせばいいじゃない。隊長も副長も駄目とは言わないはずです」

 その先の言葉を薄々感じ取りながらも、ジャックは敢えて言葉にして投げかける。

 案の定、カエデは首を左右に振った。

「もちろん兄貴もエコーさんも、喜んで私を迎えてくれると思います………ですが、私は二人の新婚生活を邪魔したくはありません」

「気にしすぎだと思いますがね」

 ボーマの言葉にジャックも何度も頷く。


「元々兄貴は、今のように目立って動く事は好きではないんです。力も才能もあるはずなのに、それを見せる事もせず、逆に気の合った仲間で、気兼ねなく馬鹿騒ぎが出来る集団の中で、毎日を過ごせればいいって本気で思っている人です」

 カエデの言葉に、二人は何も言い返さなかった。タイサという人物、そして王国騎士団『盾』という集団が、まさに心地良い環境だった事は、同じ騎士団に属していた者からすれば、全員が共有していた事だったからである。


「確かに隊長は、騎士団長という柄でも………いや、そもそも騎士という柄でもありませんでしたね」

「だが、あの柄だったからこそ、俺達はここまで一緒に居られたんですぜ」

 ジャックの肯定、ボーマの事実、どちらも的を得ていた。

 ボーマが大きく背を伸ばし、短い両手を頭の後ろに添える。

「そういう意味では、俺達は隊長に随分と甘えていたんですかねぇ」

「見方を変えれば、そうかもしれないけど、隊長もそこまで気にしていないと思いますよ?」

 ジャックが足元の小さな石を軽く蹴る。

「今じゃぁ、魔王軍と王国、二つの未来を抱えているんだから………おかしな話になったもんですよ」

 ボーマが視線を下げ、座り込むカエデに向けた。

「どちらにせよ、今すぐに結論を出す必要はないっすよ。きつい言い方になりますがね………割り切らずに明日も悩んだままだと、カエデちゃん………死んじまうよ?」

「おい、ボーマ」

 さすがに、とジャックが壁から離れてボーマに体を向ける。


「いえ、いいんです………それは勿論、分かっています」

 カエデは自分の胸に二度、そして額を二度拳で軽く小突くと、大きく息を天井に向けて吐いた。

「私が、だらしのない兄貴の面倒を見ていたと思っていたのですが、一緒に冒険していくに従って、私が兄貴に頼りっきりだったと気付けました」

 適当で、だらしがなさそうに見えて、見ている所はきちんと見ており、何気ない冗談も周囲の雰囲気を感じての素振りだった。カエデは、自分の兄の懐の深さを初めて気付かされた。


「いや、カエデちゃん。隊長を褒めるのはいいんだけれど、あれは本能だよ。病気と言ってもいい」

「僕もそう思うね」

 兄の素晴らしさに感動している最中、ボーマが横槍を入れ、ジャックもそれに追随する。

「だからカエデちゃんは、必要以上に気にする必要はないと、俺は思うね」

 ボーマが、それ以上考えても仕方がないと肩をすくめ、冗談で話を終えた。


「さぁ、将来の事も何もかもは、この戦いが終わってから。俺達は俺達で出来る事をやっていきましょうや」

「何だったら王国騎士団に入る道もあるよ? よかったら僕と同じ騎士団に」

 ジャックの突然の声掛けに、ボーマがカエデの肩を後ろから両手で掴む。

「おぉっと、残念ながらカエデちゃんは次期騎士団『盾』の候補として挙がっているのだ。だははははは!」

 二人の何気ないやり取りにカエデは苦笑いで返すと、そのまま見えない天井を見上げた。

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