⑪出発前夜 ~ボーマのモテ期~
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「よし、もう俺達に出来る事はもうない。皆にはもう休むように伝えてくれ」
村の地下。隠し部屋から繋がる洞窟の中でボーマが、魔王軍に代わって二体のオークに向かって指示を出すと、オークは目を潤ませながらボーマの腕に抱きついてくる。
「おいおい、俺にはまだ仕事が残っているんだ………え、何、部屋で待っているって? いやぁ、困ったなぁ。はっはっは!」
鼻の下を伸ばしながらボーマが高笑いする。オークは人の言葉を話していないはずだったが、シドリーからオークの異性を紹介されてからというものの、ボーマとは何故か意思の疎通が出来ているようだった。
「………ボーマさん」
「おっと、君もかい? じゃぁしょうがな………ってかかかかかか、カエデちゃん!?」
ボーマが振り向いた先では、白い目で見ていたカエデと一緒についてきたジャックが立っていた。
「うわ、本当にオークに好かれてる。ボーマ、おめでとう」
ジャックは本能的に後ずさる。
「うるさいですよ。元副長」
ボーマは慌ててオークの腕から離れると、額から流れる汗を肩の服で拭き上げ、何事もなかったかのように真剣な表情をつくり出す。
「カエデちゃん。どうかしたかい?」
「………い、いえ。何から話した方がいいか忘れました」
カエデも自分の額に拳を当てて、気持ちを落ち着かせる。
ボーマは腰に手を当てて大きく息を吐くと、オーク達を退散させて環境を整えた。
「表情が暗いよ? 何があったか分からないけど、まずは落ち着いて………思いついた言葉から出してごらん」
「ボーマさん、きもい」
「だーかーら、お前さんは黙ってろぃ。一応、元副長でも俺の方が先輩なんすよ?」
代弁するかのようにジャックはカエデの後ろから口の横に手を当てて声を高くして呟く。
「………分かりました、ありがとうございます」
カエデは大きく息を吸い、自分の頬を挟むように両手で顔を揉む。
「とりあえず、思ったことから吐いて見ますね」
「そうそう、遠慮なく吐いてごらん………はぃはぃ、ジャック君は口を閉じてねー」
今更気遣う必要はないと、ボーマが眉をひそめながらジャックに向けて手を払う。
カエデが『では』と口を開いた。
「ボーマさん、さっきのは、流石にちょっと気持ち悪いです」
どうしてオークと言葉が通じているのか、オークにモテている事に対して、カエデは否定の言葉を使わずに彼を拒絶した。
「………さすがは隊長の妹さんだ。ここにきても容赦ないっすね」
後ずさるボーマの肩から力が抜け落ちる。ジャックは口を押さえ、笑うのを堪えていた。
「まぁ、そこは一割程冗談なのですが」
「九割本音なら、それは冗談とは言わないっすよ」
苦笑いするカエデに、ボーマは即答した。




