⑧出撃前夜 ~一人生き残った者~
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「お呼びですか、大魔王様」
シドリーは一人、大魔王の前で膝をつき臣下の礼をとる。
「良い。顔を上げよ」「はい」
広場での定位置、大魔王は会議以外、ずっと同じ場所に座り続けていた。隣に立つシドリーの始祖コルティも、時々何かの用事で傍を離れる事はあったが、不動のまま男の横で立っている事も多かった。
シドリーは命令通り顔を上げると、大魔王の言葉を待つ。
大魔王は肘掛けていた手から顔を浮かせると、王としての姿勢を作り直す。
「妹の件では、済まなかったと思っている」
シドリーの体が静かに跳ねた。
「元々、余がオセをあの策に抜擢したのは、魔王軍の中に人間に対する不満が残っている事を早急に解消させる為、最も相応しい役として選んだつもりだった。だが、結果として貴重な戦力………いや、最後の姉妹をお前から奪ってしまった責は、余にある」
シドリーは何も答えない。
大魔王は目を瞑り、そして再び目を開けて彼女を見つめた。
「お前には余を責める権利がある」
シドリーの体が再び揺れる。
「いえ、妹は………オセは自分の与えられた任務に納得して出発しました。決して大魔王様が心を痛められる必要はございません。そのお言葉だけで十分でございます」
「………そうか、お前は忠義者だな」
下唇を噛み、メイド服を掴む手が震えているシドリーを見ながら、大魔王は短い言葉で済ませた。
「ならばせめて、余はその忠義に答えなければなるまい」
大魔王は立ち上がり、数歩前に進むと震えるシドリーの肩の上に手を置く。
「大魔王様?」
尊敬すべき存在が自分の肩を支えている。シドリーの震えは次第に小さくなっていた。
「かつて我が友は、蛮族と呼ばれていたお前達の先祖を一つにまとめあげ、さらに国家という社会制度を与えた。奴は、恐怖で組織を維持出来ても、繁栄は出来ないと本気で信じていた」
シドリーは顔を上げ、昔を思い出すように語る大魔王を見上げ続ける。
「余もそれに倣うとしよう」
大魔王はシドリーの顔に視線を向けた。
「今から余の目的を話そう。その上で、今後の立ち振る舞い仲間と共に考えるが良い」




