①目覚めの一発
「魔王様、一つ申し上げても宜しいでしょうか?」
翌朝。
広場に集った者達の前で、シドリーが眉間にしわを寄せながら湧き上がる感情を抑える表情をつくっていた。
「デル騎士総長。私からも宜しいでしょうか?」
バイオレットも負けじと目を細め、両方の眉が合わさりそうになっていた。
「魔王様が二日酔いという話は、聞いた事がありません」
「騎士総長が二日酔いという姿は、見せない方が良いと思います」
二人の言葉が、ほぼ同時に放たれる。
「「………こいつが悪い」」
椅子に座っていたタイサとデルは、大きな長机の上に横顔を乗せたまま、向かい合って座る相方に力無く震える指を向ける。
「………隊長」「兄貴………」「あなた………」
エコーとカエデ、そしてデルの妻であるエルザが片手で顔を覆い、朝から重い溜息をつく。
一体何時まで飲み明かしていたのか。会議に立ち会った全員の吐く息が一斉に聞こえてきた。
「しかし、さすがは王女殿下。二人がこんな状態にもかかわらず、気丈に振る舞っておられる」
壁際に立つフェルラントが顎に手を置いて頷き、感心しながらテーブルからやや離れた所で静かに座るアイナ王女を見ていた。
「「………いやいや」」
タイサとデルが、顔をそのままに手を左右に振っていた。
王女は二人の情けない姿を見ても微動だにせず、平静を保っている。
一言も発さずに。
「王女殿下?」
シエンが瞬き以外、何もしていない王女に首を傾げた。
王女の首が油の切れた金属扉の様に動き出す。
「まさか………」
シエンの青ざめていく顔に、王女の瞬きが多くなる。
「………んん?」
彼女は口を開けられなかった。
人間、魔物関わらず、全員の溜息が平等にして公平に揃う。
「エコー殿………済まないが頼む」
「分かりました。ボーマ、手伝って」
「了解ですぜ………へっへっへ」
シドリーが額を押さえながらエコーに声をかける。すると、呆れた顔のエコーがタイサの左脇を抱え、遅れてボーマが意地の悪い顔で右脇を抱えた。
「フェルラント殿………済みませんが」
バイオレットもシドリーと同じ顔で声をかける。
「了解です、バイオレット殿。さぁデル殿、王国騎士団流で逝きますぞ」
デルがフェルラント、そしてバルデックに両側を支えられて椅子から立たされた。
「さぁ、王女殿下もこちらへ」
最後にシエンとバイオレットが王女の背中と手を支えながら、部屋の奥へと案内される。
「兄貴、お腹に一発でいいよね」
「むむぐぅ!?」
運ばれていくタイサの後ろからカエデが拳を振り上げた。
「イリーナ、あなたはデルの方に行きなさい」
「はい、お師匠様。一発ですね!」
イリーナが元気よく姿勢を正して手を挙げる。
「………二発よ」
「むむぐぅ!?」
口を開けられないデルの叫びが漏れる。
「王女殿下は背中を擦るだけですから、ご安心ください」
アイナ王女は別室へと入っていった。
「「むむい!(ずるい!)」」
互いに離れて行くタイサとデルの声にならない音が空しく響き渡る。




