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lost19 虚構の歴史、真実の物語  作者: JHST
第一章 全てが揃うまで
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①大渋滞

 シモノフの大関所跡。

 かつてウィンフォス王国とカデリア王国との国境沿いに作られた巨大な壁であり、国境であった。その長さは地平線まで続き、陽炎でぼやける城壁を遠目に見るだけで、遠回りをして抜け道を探そうとする発想を諦めさせる力があった。

 だがカデリア王国が自ら仕掛けた戦争により滅亡し、ウィンフォス王国と併合されてからは、その意義を失い、急速に朽ちていった。二百年の歳月は城壁の規則正しい石組を不規則に砕き、その隙間を苔や土が埋めている。関所がある街の周辺は、安全の為に城壁の修復工事が定期的に行われているが、街を離れ、さらに特へと進めば、城壁はどこかで崩れているかもしれない。


「いえ、どこかが崩れているという報告は聞いた事がありません」

 長い銀髪を左右で結び、ツインテールをつくって町娘に扮しているアイナ王女が、遠回りを提案したデルの話の腰を折る。彼女は馬車の中にあった段差程度の木箱に敷かれた比較的白い布の上に座りながら首を左右に振り、遠回りはかえって時間の浪費に繋がりかねないと主張した。


「ですが、街の中は既に厳戒態勢です。東に向かう馬車は、悉く足を止められています」

 シモノフの大関所跡は、かつてない程に渋滞していた。デル達は旅人や馬車の列の最後尾についてから丸一日を過ごしたが、未だ街に入るまでの半分も消化していなかった。

 

 原因は二つ。

 一つはシモノフから東、特にブレイダス方面の通行が厳しく制限されている事である。ブレイダスの街は魔王軍との戦いで放棄されており、シモノフとブレイダスとの間にある小さな街には安全上の理由から、特別な許可を受けた者しか通れない事になっている。

 当然、反対側、つまりシモノフより東から入ってくる者達も、敵の諜報員を疑い入念に調べられ、老若男女関わらず身体検査から馬車の中、さらには積み荷の木箱を一つ一つ開けて確認する程の入念さと徹底ぶりを見せていた。


 もう一つは、物流が混乱し始めている事にあった。

 元々カデリア自治領はその豊富な穀倉地帯から、王国の胃袋として扱われてきた。その収穫物の集積場として存在していたブレイダスが魔物達に襲われて放棄された為、食料の価格が一気に高騰。それに気付いた王国中の商人達が、こぞって食料品を仕入れようと動いてきたのである。

 今では自給自足の弱い街を中心に、一食の値段が一日分の食糧費となった。まだ情報が伝わり切れていない王都よりも西部の地域は、比較的落ち着いているが、一週間後もすれば王国全土の主婦が発狂する事になる。

 東へと進めながら集めた情報だけでも、この戦いによって王国が受けた影響は計り知れないものであった。

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