⑦大魔王からの助言
「断る」
大魔王の返した言葉は短かった。
「貴方と同じ時代にいたエクセルも同じように………同じように私の問いに答えなかったわ!」
事実を知る二人に断られたフォースィの語気が強くなる。
「知らない方が良い事もある………お前は勇者の妹マキ・イクステッド、その娘だ。そして母の育てられた思い出が僅かながらに残っているだろう。それだけを胸に秘めていればよい」
大魔王が地面に向かって目を瞑る。言葉は相変わらず王としての威厳ある強さではあったが、どことなく男の言葉に、別の感情が混ざっているようでもあった。
「………気遣いは無用よ。私はこの百数十年、その事のためだけに費やしてきたのよ。今更引く事はしないわ」
フォースィの言葉に、男は顔を上げる。
「そうか。まだそこまでは気付いていなかったか………」
「何の事?」
全てを知っている男が自己解決するように頷き、フォースィの眉が低くなる。
「分かった。一つ、いや二つ程、話しておこう」
大魔王が腕を解き、岩壁から離れる。
そして人差し指を立てた。
「まず、余の友がいた歴史は今から二百年前のことだ」
「そんな事は―――」
大魔王は立てた指を左右に揺らし、彼女の言葉を遮る。
「話は最後まで聞け………では、お前が母の事を調べ始めたのは、いつからだ?」
「………もう、百七十年近くになるわね」
「正確には百七十四年だ」
大魔王が手首を回し、四本の指を立てて修正した。
「まだ気付かないか? どうやら、随分と強い暗示をかけたのだろう」
フォースィが額に指を這わせ、大魔王の意図する事を必死に考える。
そして目を大きくさせた。
「ちょっと待って………今、暗示をかけたって言ったわね?」
かけられた、とは言わなかったと彼女の顔が強張る。
大魔王も彼女が辿り着いた答えに眉を上げて、僅かに驚く。
「そっちの方に気が付くか………まぁ良いだろう」
フォースィが辿り着いた答えに、大魔王は一度だけ頷いた。
「一つ目の矛盾に気が付けないよう、仕向けているのは他でもない。お前自身が、自分の記憶を封じているからに他ならない」
「そんな………」
長年調べてきた事を全て拒否されたかのような衝撃だった。彼女自身が、自らの行動を自分自身で阻害している。フォースィにとって、その衝撃を表情で隠す事が出来なかった。
「やはり止めておくか?」
その表情を大魔王は見逃さなかった。
「………いいえ。大丈夫よ」
フォースィは自分の眉間に拳の角を何度も当てると、大きく息を吐いて大魔王の目を見る。




