⑤見慣れたかつての光景
「………羨ましいですね」
扉が閉まり、アイナ王女は目を瞑ったまま下を向き、素直な言葉を吐き出した。
「身分や立場を気にせず、本音で語り合う事が出来る………私には、ついぞ出来なかった事です」
タイサは王女の姿を見て、一人の男を思い出す。
「ギュード辺りは、気にせずに言ってくれると思いますが」
「あれは無作法というのです」
だいぶ違うと、アイナが眉をひそめた。
「………お話は終わりましたか?」
頃合いを見て、台所からこの集落の村長であるプラウが入ってきた。彼女は盆の上に湯気の立つコップを持ってきて、王女、タイサ、デルの順に薬湯入りの特性ミルクを手渡した。
「また皆さんでお会いできるとは思ってもいませんでした」
冒険者時代に立ち寄った集落、そこでの戦い、そして幼き王女殿下との出会い。彼女は昨日の事のように思い出を語り始めた。
「まさに『始まりの地』と呼ばれるに、相応しい出来事でした」
「そういえば、フォースィはどうしたんだ?」
思い出話に必要なもう一人の姿がない事に、デルがタイサに尋ねる。
「本来の目的さ。今、大魔王と二人きりでデート中」
タイサの表現に、デルが口をつけたミルクを噴き出しそうになった。
「きったねぇなぁ」
「お前の表現が悪いからだろう!?」
二人のやり取りに、アイナ王女が口に手を当てて笑っていた。
「本当に仲が良いのですね」
「「まぁ、腐れ縁ですから」」
理由も揃っていた。
タイサがミルクに口をつけると、そういえばと思い出す。
「王女殿下も、今日くらいは自由にしていいんじゃないでしょうか? そもそもギルドの食堂では好き勝手に喋っていたじゃないですか」
「………確かに」
ギルドの食堂での彼女は、魔法で金髪に、髪型すら変え、ウェイトレス姿で荒くれ男達を相手に戦場を駆けまわっていた。忙しかった日々に、アイナ王女はその事をすっかり忘れていた。
「分かりました」
王女はミルクを近くのテーブルに置くと立ち上がり、長い髪を左右に束ねる。そして小さく呟くと魔法で髪の色を根元から先端へと金色に染め上げる。
「プラウ、食材はあるかしら?」
既に口調を変えていた。
「え、ええ。ありますけど」
初めて見る王女の仮の姿にプラウが戸惑っている。
王女はにやりと笑うと、腰に手を当てた。
「タイサ、デル。今日はとことん付き合ってもらうからね!」
「「あいよ」」
タイサとデルは頬を緩ませながらミルクの入ったコップを持ち上げた。




