③彼女の贖罪
「それでは、我々は先に出ます」
シドリーがタイサに一声かけ、アモン達と早々に退出する。
それは、彼女なりに気を遣っての行動だった。
「では、我々も。団長………いえ、デル騎士総長。遅くなりましたが、ご昇進おめでとうございます」「あ、お、おめでとうございます!
フェルラントが頭を下げると、バルデックも慌ててデルに昇進祝いの言葉を述べて彼に続く。
「ありがとう………とは、言ってもまだまだ名前だけさ。何ならフェルラント、お前が銀龍騎士団の団長を名乗ってもいいぞ?」
「はっはっは、ご冗談を」
デルの意地の悪い提案に、フェルラントは反るように笑って手を左右に振った。
「小官では、せいぜい副長代理で精一杯ですな。銀龍騎士団の団長は先代に倣って、もう少し融通の利かない者が務めるべきかと」
「よく言う」
デルが鼻で笑う。
冗談を言い終えたフェルラントは、詳しい話は後でと言い残し、バルデックを連れて部屋を後にした。
玄関の扉が閉じられる。
「………お久しぶりですね、タイサ」
アイナ王女は椅子の向きを変えて座り直した。
タイサが小さく頭を下げる。
「王女殿下もお変わりなく………それとお父君、国王陛下のご逝去、お悔やみを申し上げます」
本当ならば、元騎士団長とはいえ膝をつき、進化の礼を尽くして話さなければならない。タイサは一瞬、その衝動に駆られて体が僅かに動いたが、今の立場を思い出し、座ったままの一礼に留めた。
「ありがとうございます」
その意を察しているのか、アイナ王女もデル達も、タイサの行動について何も言わなかった。
「まさか、魔王になって奴らを率いていたとはな………相変わらず先の読めない友人だ」
「お互い様だ。お前だって、よく王国騎士団と戦う気になったな」
タイサが肩をすくめる。
「ああ、そうそう。騎士総長就任おめでとさん」
「適当過ぎだろ」
デルが鼻で笑う。彼にとっては親友が魔王になったという不安が残っていたが、このやり取りでその全てが払拭された。
「それと………」
タイサが落ち着いた表情で頬に指を当て、バイオレットに顔を向けた。
それだけで彼女は体が強張り、震える唇を噛んでいる。
「久しぶりだな、バイオレット」
「………はい」
硬い体でバイオレットが一度頷く。
「元気だったか?」
「………はい」
さらに頷く。
「騎士団『盾』の団長は思う以上に大変だ。しっかり頑張れよ」
「―――のですか?」「ん?」
バイオレットは小さく震える声を絞り出す。
タイサは静かに彼女の言葉を待った。
「私を………責めないのですか?」
一息待ってから、タイサは落ち着いた声で彼女に聞き返す。
「どうして責める必要がある?」
「私は隊長を騙しました。家の問題という弱みを握られていたとはいえ、人の道に外れた事を………しました。隊長を騎士団長職から追い出す事にも加担しました。それでも………それでも私を責めないのですか?」
普段から冷静なバイオレットの言葉に感情が入っている。彼女はまるで高山を登ったように息を切らし、指が白くなるほどに自分の胸元を掴んでいた。
「俺は気にしていないよ」
バイオレットが何かしらの目的をもって入団してきた事は知っていたと、タイサが付け加える。
「だから責めるつもりもない」
「どうして隊長は………誰に対しても優しく出来るのですか」
バイオレットとしては『こいつ、よくも』と感情的に責められたかったのだろう。だが返ってきた言葉は、騎士団長の頃から何一つ変わらない性格の言葉であった。適当で、寛容で、部下思いなタイサの一言だった。




