⑩締結
「つまり、元々私達と共闘関係を結びたかったという訳ですか」
ボーマから簡単な事情を聞いたアイナ王女は、複雑な感情を抑えつつ下を向き、首を小さく振る事から始めた。
「………もっと良い方法は、なかったのですか?」
そして一言だけを口にする。
王女が後ろを振り向くと、そこには人間も魔物も関係なく手当てが行われている異様な光景があった。
回復魔法の使い手である獅子、77柱でもあるブエルの範囲魔法のお陰で重傷者であっても一命を取り留める事に成功したが、それでもこの戦闘によって四名の騎士と八匹のゴブリン、四体のオークが戦死している。
人間にしろ魔物にしろ、そう遠くない先の戦いで使われる命であった。王女の複雑な気持ちの根幹がそこにあった為、素直にオセやボーマ達の話を受け入れる事が出来ずにいた。
「お前達には悪いが、俺はこれで良いと思っている」
オセは戦死したオークの両手を胸の前で組ませると、王女の前で立ち上がり、自分に親指を向ける。
「俺達だって人間に対して思う所は、今でも根強いんだ。いくらお前達が、知らなかった、昔の話だと声高に叫んでも、俺達はその恨みを糧に小さい頃からずっと教わってきたんだぜ?」
今更、そうだったのかと感嘆に頷けるはずがない。
「私達も、仲間や家族を殺された恨みを簡単には割り切る事が出来ません」と、シエン。
「どっちも簡単には割り切れないという意味では同じって事ですよ。だから互いが持つ負の感情を最小限で効率良く断ち切るには、これしかなかったんでさぁ」
ボーマが表情に困りながら間に入って言葉を紡ぐ。
時間をかけて話し合えば、犠牲を出さずに解決出来るのかもしれない。だがそれは終わりの見えない『いつか』の話であって、今はそれを選ぶだけの時間が互いにない事をボーマが説明する。
「俺だって、殺し合いが良い方法だとは言いたくはないっすよ」
最後にボーマは視線を斜めに向けて呟き、それが双方の主張を見てきた人の言葉だと、多くの者達が感じ取った。単純な言葉ではあったが、互いに共感できる重い言葉であった。
「分かりました」
王女が飲み込む。
「詳しい事情や今後の事は、集落に到着してからとしましょう。まずは同盟と共闘の件、我が名において約束させてもらいます」
そう言葉にすると、王女はオセに手を差し伸べた。
「助かったぜ。もしも断られたら俺が姉さんに殺される所だった」
オセは全身を一度震えさせると口元を緩め、アイナ王女の手を握った。
続いてオセがデルとも握手を交わす。
「だが………いつか決着はつけさせてもらうからな」
「ああ。この戦いが終わったら、最優先で受けるとしよう」
一切の淀みのない瞳のデルに、見つめられたオセは手を放してから人差し指を顔の前で振り、鼻で笑ってみせる。
「知ってるか? そういう言葉を吐いた奴は長生きしないらしいぜ」
「そいつは困るな。よし、お前も同じ事を言ってくれ。どっちが生き残るか競争だ」
「て………テメェ、ぶっ殺すぞ!」
言い合いではデルに分があった。




