⑨停戦
「イリーナ、戻りなさい!」
「ふ、ふぁい!」
涙目のイリーナが赤くなった鼻を押さえながら、フォースィの言葉に従って大きく後方に跳ぶ。
生き残った魔物達も、対峙していた騎士の動きに注視しつつも、徐々に距離を取り始め、オセの元へと集まった。
「潮時か………」
オセは地面に倒れつつもまだ生きている仲間の姿を一人一人確認すると、大きく息を吐いて力を抜き、腰に手を置く。
そして鎖の巻かれた白銀の斧の柄を地面に突き刺すと、未だに剣を構えている王女達に鋭い目を向けた。
「我が名はオセ! 魔王軍が77柱が1柱である。我らが魔王様の命により、同盟の使者としてウィンフォス王国の王女殿下に対して、交渉の場を要請する!」
戦場の空気が一転した。
「………今更何を言っているのですか」
シエンの眉間にしわが寄る。
「不利になった事での、停戦の申し出でしょうか?」
「いや、奴は同盟と言っていた」
ジャックの意見に、デルが首を小さく左右に振る。
「名指しを受けた身としては、どうするのかしら?」
魔導杖を地面に置いて屈んでいるフォースィが、イリーナの鼻に傷薬を塗りながら王女を見上げた。
アイナ王女は即答出来ずにいた。
同盟とは何か。オセの、または魔王軍の目的とは。ジャックの考えるように、不利になった事による思い付きの言葉であれば、仮に同盟や共闘を受けたとしても、何かの拍子で背中から襲われる可能性が残る。
しかし、相手にまだ十分な戦力があり、人間側の覚悟なり力なりを試す目論見があっての戦闘であったのであれば、当初の目的通り、同盟や共闘を結ぶ意味は十二分にある。
両極端の選択肢に、王女の拳は強く握られていた。
「………王女殿下、どうやら提案を受ける価値はありそうです」
声と共に、森の中からデルが、オセと王女達の間から姿を現した。
「デル、無事でしたか!」
「はい。バイオレットも無事です。それと………」
デルが森の中に視線を移すと、バイオレットと大きな獅子、さらに太った男が順番に森から現れる。
「あぁぁぁぁぁっ!」
イリーナが声を上げて、太った男に向かって指を差した。
太った男は顔中から汗を流しながら、イリーナに向かって満面の笑みを見せる。
「いよぉ、イリーナちゃん。元気に―――」
「ヘンタイだ!」
―――変態、変態、変態。
何度も反響するかのような言葉に、全員が各々の感じた感情のまま太った男、ボーマに様々な色の視線を向けた。
「隊長おおおぉぉぉぉぉう!」
男が地面に崩れ落ち、空に向かって心の叫びが放たれる。




