⑧消耗戦
「王女殿下、もう少し下がってください!」
シエンが周囲を見回しながら、敵集団の動きを常に確認する。そして顔を右へ向けた瞬間、目の前で倒れていたオークの体からゴブリンが飛びかかった。
「援護します!」
シエンの目と鼻の先にあったゴブリンの体が、ジャックの投げた片手剣によって貫かれ、横へと吹き飛ばされる。
二人で王女を挟むように、背中を受け合う。
「王女殿下、ここは危険です!」
ジャックもシエンの言葉に賛同して声をかける。
「いいえ、ここで王族が引く訳にはまいりません!」
王女は剣を正面に構えたまま微動だにしなかった。
戦場の中心となりかけていた三人は、迫りくる敵の攻撃を防ぎ続けていた。
両軍の数の差はついになくなり、むしろ時間と共に騎士の方が少なくなってきている。ただし魔物側も回復の結界が小さく、不安定になってきており、地面に伏している数は確実に増えていた。
「このチビ助、いい加減に!」
「おばさんもしつこい!」
イリーナは相変わらずオセと舌戦を繰り広げ、戦場を移動しながら戦い続けている。イリーナの怪力はオセの魔法障壁を物ともせずに一撃で全てを粉砕するが、赤い鎖だけがどうしても突破できず、彼女の体に触れる事が出来ないでいた。
一方のオセも、魔法障壁を破壊される度に展開し続ける事を余儀なくされ、手数が極端に減り、また彼女の大振りな一撃では小柄なイリーナを捉えきれず、やはり決め手に欠けていた。
「耐えよ! 敵の回復は追いついていないぞ!」
シエンが剣を掲げて、周囲の士気を高める。
そこに、進路上の重装オークを圧縮させた風魔法で吹き飛ばすフォースィが合流した。
「タネガシマを持つ敵はあらかた片付いたわ」
魔導杖を回転させてから空高く掲げると、自分を含めた四人の傷が僅かに癒える。
「悪いけど、今日の魔力はこれで打ち止めね」
フォースィが自嘲する。
「ですが、もう一踏ん張りです。頑張りましょう」
王女が激励し、全員が頷いた。
既に騎士団、魔王軍共に疲弊し、もはや戦場で戦っている者達は数える程しかいない。地面に倒れている人間も魔物も呻き声を上げながら蹲っており、戦線に復帰できる状態ではなかった。
「………もうこれしか残ってないのかよ」
我に返ったオセが周囲を見渡し、自分以外に立っている仲間が二匹のゴブリンと三体の重装オークだけとなっていた事に舌打ちする。
「余所見を発見………わぷっ!」
視線が外れた隙を突いてイリーナがオセに切りかかるも、赤い鎖が間に割り込んで網目状の防壁に防がれ、さらにオセがイリーナの鼻頭に右手の甲を素早く当てて引き戻した。




