⑤命の消耗
「くっ、ちょこまかと!」
「以前は、そいつに体を燃やされたからな。お前の方こそ、同じ動きのままだと不味いんじゃないか?」
デルはオセが持つ左右の斧を。両手の剣で外へと弾く。
オセの両手が大きく開かれた。
その間合いの中にデルが回転させて体ごと入り込むと、回転の勢いを生かしたまま彼女の腹部に肘打ち、さらに彼女の下顎に向けて後姿のまま剣を握った右手を高く振り上げる。
だが、デルの攻撃は障壁の半分を相殺するに留まった。
「魔法障壁か………」
「甘いぜ!」
オセは右足でデルを蹴り上げようとしたが、彼女の間合いの中で上半身を左にずらして回避する。
「「これでぇ!」」
オセの振り上げた右足がそのまま巻き戻される。デルは左膝を曲げ、さらに右足を下げて時計回りに半回転。二本の剣を地面に水平にした状態でオセを薙ぎ払う。
オセの残った二枚の障壁は、遠心力を加えたデルの攻撃で破砕され、そのまま腹部に服を裂く二本の切り傷をつくる。一方のデルも左肩にオセの踵を落とされ、左手から剣が零れ落ちた。
「「ぐっ!!」」
二人がお互いに追撃を警戒し、すかさず後方へと跳んで距離をとる。
デルは距離が取れた事で、周囲の状況を確認する。
騎士達と魔物達との攻防はほぼ互角。一人が魔物を地面に沈めると、その騎士は次の瞬間に他の魔物に殴り倒されている。弓を構える騎士はタネガシマを持つゴブリンを優先的に狙うが、相手も同じ考えを持って互いに撃ち合いが続いていた。
陣形による恩恵も得られない無意味な乱戦。それは消耗戦の様相を見せていた。
だが、元の数はデル達の方が有利だった事が救いとなり、この場で立っている魔物達よりも、騎士達の方がより勝利に多い状況を作り出している。
「デル騎士総長! 一気に詰めましょう!」
軽装のゴブリンの首元を、騎兵槍で突き刺したシエンの叫ぶ声が耳に届けられる。
だが、それとは反対の言葉がデルを挟んだ位置から放たれた。
「デル、一旦陣形を立て直すわよ!」
フォースィだった。
彼女は馬車や負傷して引きずられて来た騎士達を守る為に障壁を展開させつつ、王女を中心にイリーナとバイオレット、そして騎士団『盾』の副長を務めていたジャックとで密集した円陣を組んでいた。
デルが改めて正面を見ると、数を減らして不利になっている魔王軍に動揺が見えず、オセは何かを叫びながら生き残っている魔物達に指示を出している。
デルがその意味に気付く。
「シエン、敵はまだ崩れていない! ここは一旦陣形を立て直す!」
「………っ、了解!」
シエンが周囲の騎士達に声をかけ、互いの距離を意識しつつ後退を始めっせる。
それと同時に、森の奥から放たれた猛獣の咆哮が騎士達の耳に到着する。
森の奥から緑色の薄い膜が円形に発生し、魔物達を包み込んだ。緑色の膜は同色の光の粒を生み出し、魔物達の傷口に吸い込まれていく。地面に伏していた者達にも同様の減少がはたらき、流血し地面に倒れていた瀕死のオークが、緑色の光が体に降り注ぐと同時に、まるで何事もなかったように立ち上がっていった。




