④デルとオセ
「………殿下」
デルは王女の表情を読み取ろうとした。
どちらにせよ、決断の権利は彼女にあったからだ。
「シエン。私に剣を」
「はっ!」
王女がシエンを呼び出す。彼女は近くにいた騎士から予備の剣を受け取ると、王女の前で跪いた。
「皆の多くが同じ気持ちであるのなら、私だけ迷う事は出来ません」
シエンが掲げられた片手剣を受け取り、鞘から剣を引き抜いた。
「デル騎士総長。私達も覚悟を決めましょう」
「………分かりました」
王女の言葉にデルも表情を切り替え、左右の鞘から腕を交らせて剣を引き抜く。
アイナ王女は持っていた剣を肩からまっすぐ、迷いのない一直線でオセに向けた。
「あなた達の歴史に降り積もった怨嗟、その全てを私達に吐き出してみなさい!」
王女が放った言葉に、オセは全身の毛が逆立つような高揚感を感じ取り、裂けんばかりの口から鋭い歯を見せると、目を大きくさせて白銀の斧を王女へと向ける。
「かかっ! 王女にしておくには勿体ねぇ、最高の言葉を貰っちまった! おらぁ、行くぞテメェら! 二百年分の恨みつらみを俺達の先祖の代までぶつけてやるぜ!」
魔物達が一斉に吠えた。
「「全軍、突撃ぃ!」」
アイナとオセの声が重なった。
デル達騎士団とオセ達魔王軍が横一列でぶつかった。
互いに仲間を殺され、仇を討とうと共通した感情で声を荒げ合い、手に持つ武器を大きく振りかぶり合う。
「デル! お前とはここで決着をつけてやる! 妹と姉さんの仇、ここで取らせてもらうぜ!」
オセが真っ先に跳び上がり、白銀の斧で太陽を隠すように大きく振り下ろした。
「戦うならば受けて立つ。シエン! 王女殿下を最優先にお守りしろ!」
デルは頭上に振り下ろされた斧を半歩下がり、かつ斧の軌跡に沿うように二本の剣を滑らせて地面へと一撃を誘導する。白銀の斧はデルの鼻先を掠って目の前の地面を砕き、大小の土塊を巻き上げた。
その隙を突き、彼は肩から短剣を抜いてオセに放つ。だが、斧に結ばれた赤い鎖が短剣の線上に浮いて
弾き落とす。
「相変わらず面倒な鎖だ」
「アイム姉さんの紅蓮のアイギス、そう簡単には………うわっぷ!」
オセの顔に黒い土の塊が浴びせられた。
デルは短剣を抜いた勢いで回転し、ついでにと踵で足元の地面を削り上げていた。
「成程、弱点は変わらずか」
「て、テメェ!」
赤い鎖は相手の視線に反応し、自動的に防御行動を取る事が出来る。だがそれは、視線を必要としない裏当てやフェイントには無力と化す。一度ならず二度戦ってきたデルにとっては、それ程脅威とはならない守りであった。
オセはさらにもう一本の斧を空間から取り出すと、デルに向かって二本の斧を、異なる角度からほぼ同時に振り下ろす。
だが斧は彼を直接狙わず、敢えて外してはその勢いで振り上げる事を繰り返していく。そして、オセの動きに遅れるように、赤い鎖が二人の周囲を回り始めていった。
「それも、この前見せてもらった!」
デルはその場で斧を打ち払う事をせず、数合ごとに体を左右に移動させ、鎖が自分自身に絡み合うのを防ぎ続ける。




