⑧実力の差
「あくまで吾と戦うか………ならば仕方あるまいて」
アスタロッテは小さな口で息を吸い込むとその力を解放する。彼女の周囲には僅かに濃さの異なる黒い波動が二重三重と生み出されていく。足元の小石は振動し、ついには限界を超えて黒い粒子となって波動の中に消えていく。
「今度はこちらから行くぞ? 是非耐えて欲しいものじゃ」
「面白い。その小さな体で、どこまで―――っ!?」
タイサが言い終える前、アスタロッテはタイサの胸の前まで迫っていた。
「この動きは!」
「ほら、耐えてみせよ」
アスタロッテの右肩がタイサの胸当てに寄りかかるように小さく当たる。
瞬間。タイサの胸当てから体に、背骨が外へと噴き出すかのような見えない衝撃が抜けていった。
「がっはぁぁっ! は、八頸だとぉ!?」
彼女から送られた魔力が体中で跳ね返り、暴走しながら後背へと突き抜ける。
「隊長っ!?」
エコーが即座にタイサの体の隙間から、アスタロッテに連続した突きを放つ。
だが、彼女の突きは六角形の障壁が次々と先手を打って現れ、アスタロッテへの道を悉く阻んでいく。
「伏せよ、グラビティ」
少女の一言でエコーは膝から崩れた。まるで彼女の肩に巨人の腕が乗ったかのような重圧が襲いかかり、ついには体勢を崩し、地面を砕きながら膝から埋もれていく。
「エコー!? こ、この野郎!」
「野郎ではない。呼ぶのならば小娘が正しい表現じゃ」
態勢を立て直したタイサが、上下から挟み込むように杭を放つ。まるで猛獣の牙を形容する一撃は、アスタロッテの上半身を狙った。
「あれにも耐えるか………さすがは黒の剣に選ばれただけはある」
そう見上げるアスタロッテが、タイサの杭で貫かれる。
少女は黒い霧となって霧散した。
「残像じゃ………いや、正確には魔力で作った幻影というべきか」
アスタロッテはタイサの左隣に笑みを零しながら立っていた。
そして畳んだ状態の扇子を、タイサのこめかみに当てる。
「バーン」
側頭部に八頸が叩き込まれた。
「がっ!」
タイサは口を開けたまま、床を割るような音を立てて横に倒れる。
「何じゃ、つまらぬ………」
扇を広げ、アスタロッテは口元を隠しながら眉をひそめると、大きな欠伸をしながら踵を返し、その場から離れ始めた。
「所詮は人か………やはりこの世界は、吾らが治めるべきじゃな」
領主の椅子に向かうアスタロッテ。
その少女の頭の上に、小さな何かが降ってきた。
「石? 天井か?」
見上げた瞬間、天井が大きく崩れ落ちる。
そして巨大な鉄球がアスタロッテめがけて落下してきた。
「どんぴしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
さらに鉄球から離れるように、紫色の髪をもつ女性が倒れるタイサの傍に飛び降りる。
「先輩! とにかく時間を! 稼げるだけ稼いで下さい!」
ボーマとバイオレットだった。




