①不器用な妹
森の奥は木々の輪郭がうっすらと見えるだけで、その光景は夜と大差なかった。
その森の前で貴族や城内で使われるような上品な両開きの扉が無造作に一枚だけ立っており、その扉の前で一人のメイドを中心に、十数匹のゴブリンとオークが横に並んでいる。
白と黒のメイド服を纏った亜人の手には赤い鎖、そして白銀の斧が握られている。
「久しぶりだな………オセ」
森の前で止まった馬車から降りたデルが、彼女に近付く。
アイナやフォースィ達も、それに続いて地面に足をつけた。
「ああ、久しぶりだな………デル。もう火傷は大丈夫なのか?」
前回のブレイダスでの一騎打ち、相打ちとなったデルは体の半身に酷い火傷を負っていた。
「あぁ、後ろにいる神官様の回復魔法でな。お陰で足を向けて寝られなくなった」
「嘘ばっかり」
デルが軽く握った手の親指でフォースィを指すが、彼女は冷たくあしらい、肩をすくめて息を吐く。
そして言葉が消える。
太陽によって暖められた生暖かい風がデルとオセ達の二人を撫でると、オセから口を開いた。
「我々魔王軍は、貴様達との共闘を望んでいる」
「………どういう事だ? 悪いが話が全く見えない」
ついこの前まで殺し合いを繰り広げていた相手が『共闘』という言葉を使って話しかけてきた。恐らく魔王軍の事情が大きく変わった、そこまではデルにも予測する事が出来たが、推測だけでは返答のしようがなかった。
デルが言葉に困っていると、オセの隣のオークが彼女に耳打ちをし始める。
「………う、うるさい! お前に言われなくても分かっている!」
オークがオセに小突かれる。彼女としては十二分に手加減しての事だったのだろうが、眉間のやや上を小突かれたオークは、体を左右に揺らし、やがて空を仰ぐように倒れてしまった。
そして周囲にいた数匹のゴブリン達が手のひらで顔をおおい、溜め息をつきながら倒れたオークを森の奥へと引きずって行く。
オセが大きく咳き込む振りを混ぜ、気難しい顔のまま口を開ける。
「あー、その、何だ。早い話、お前とは決着をつけておきたいという事でだな………何だ、服を引っ張るな! あぁ? 話が飛び過ぎてるだとぉ?」
別のオークが首を左右に振りながらオセのメイド服の肩を引っ張る。
「………共闘なのか、戦いたいのか、一体どっちなんだ?」
さすがのデルも呆れ始めた。
「くっ!」
オセがのけ反るように顔を赤くする。そして服を引っ張ったオークを小突き、上手く説明出来ない自分の感情を誤魔化す。
「あぁ、もう! どこから説明すればいいのか、良く分からねぇんだよ!」
オセが何度も舌打ちを繰り返す。
森から戻って来たゴブリンが、さらに倒れていたオークを見て顔を手で隠した。そして、再び同じ面子のゴブリン達が、追加になったオークの肩や腕を掴んで森へと再び運んでいく。




