▽第59話 大鴉装核と大山音子
夕焼けに照らされた廃墟の都市。
陸軍拠点を離れてから数十分後には目的地に到着。
大鴉装核が待つ場所へと、私たちを乗せた無人輸送機は降下していく。
「見えた……」
「律儀に待ってるね、アイツ」
窓の外に大鴉装核が見える。海軍拠点の時に見たのと同じ姿だ。
「行くよ、決着を付けに……!」
無人輸送機が着陸。開く扉。
私たちはガイセイを筆頭に無人輸送機を降りた。
≪来たな≫
夕焼けに照らされる大鴉装核の姿と声。
右手にイズレット粒子銃。左手は手ぶらだけど、左腕がなにやらゴツイ。しかも左背部にマイクロミサイルポッド、右背部に20mmのスナイパーライフルまで搭載してる。
ちゃんと細部まで見れば見るほど武器の詰め合わせ。まさに重装備。
≪俺はこの時を待っていた≫
椿博士の情報通り、重装備の大鴉装核が一人だけ。対してこっちは八人。
数的有利はこっちにある。だけど大鴉装核の力を間近で感じた身としては数的有利程度で勝てるとは思えない。
≪確かアルクと名乗っていたか、お前≫
「え?」
≪俺の装備の把握、人数差を元にした戦力比較、俺にどう勝てるかの思案、戦いを考えているな?≫
「!?」
考えていたことを言い当てられた。
思考盗聴でもされたか?
≪思考盗聴などしていない≫
だったら思考を読める特殊能力か?
それとも表情、血流、状況から超絶的な推理しているとか?
≪俺に特別な能力はない≫
「じゃあ、なんなのさ?」
≪お前と俺は同類だ。趣味趣向から性格まで全て違うが、お前は俺と同じ目で、同じ戦いを見ている。だから分かる≫
同類。相手も同じ戦闘思考なのか。
「そっちも装備と人数差を見て、戦いを考えていたって訳?」
≪そうだ≫
確認してみたら、見事に同じことを考えていた。
危険だ。考えが読まれるということは動きも読まれる。獣兵の身体能力でのゴリ押しは通用しない。
≪俺は自身で獣兵の身体特性を検証し、把握している。ゴリ押しは通用せんよ≫
「まるで一人で獣兵の検証を全部やったって言い草だね?」
≪もちろん俺一人で全てやった。人道、社会的リスク、コスト、あらゆる面からして軍の計画に拉致してきた民間人を使うのは間違っている≫
彼は間違っていない。真っ当なことを言っている。
だから分かる。
実力的にも精神的にも付け入る隙が全くない。雰囲気、発言からして芯があり、煽っても通用するように見えない。
≪アルク、いや……大山音子、お前もそう思うだろう?≫
「その名前……」
大山音子。
その名を言われて、頭の中のモヤっとした部分がクリアになっていく。
思い出してくる。記憶が蘇ってくる。
親や他人が私を呼ぶ名前。自身の名刺に表記された名前。私の名前。
その名前は私のもの。
「なんで私の名前を……」
≪選別だ。この世界に残るのなら、正式な軍人として我が艦隊がお前を引き取る。残りの仲間の引き入れはお前がやればいい≫
選別――私は大鴉装核に選ばれた。
私の本当の名を教えてくれたのは選ばれた証明を見せるためか。
「でも私が連盟の軍服に袖を通したところで、行き先は戦場なんでしょう?」
≪その通りだ。嫌なものも見るだろう。だが、人道を貫く我が艦隊とは気が合うはずだ≫
まともに話が出来て、強い正しさを持つ大鴉装核の艦隊となら、確かに気は合うかもしれない。
「ごめん、やっぱり私は異世界に行くわ。戦いを当たり前とは思えないから」
だけど死人が出る戦いは好きじゃない。
それが強制ならともかく、自分で選択出来ることなら尚更戦いは望まない。
誰かを殺すのも、誰かを殺されるのも、慣れることが出来ないから。
≪いいだろう。それがお前の選択であるなら≫
「あっさり快諾してくれるんだね」
≪自由あってこその選択。俺は縛られる気はないし、お前を縛る気もない≫
「ありがとう」
本当にいい人。お礼を素直に言えるくらいには清々しい人だ。
この人の下でなら辛い戦いにも行ける。そう思う自分が片隅にいる。
≪そろそろ始めよう。俺は殺す気でやる、お前たちも殺す気で掛かって来い≫
そう言って、大鴉装核はスラスターを噴かして距離を離していく。
同時に彼の手から小さい装置が地面に落とされ、その装置から発生した3Dホログラムで戦闘開始までのカウントが始まる。
「アルク」
「ん、アン?」
「彼、いい人だよね」
「そうだね……」
「だから勝とう。大鴉装核の善意に応えるためにも」
「うん!」
アンの言う通り、勝つ。
ようやく計画を終わらせるチャンス。
大鴉装核のためにも、大鴉装核を倒して、終わらせてみせる。
完結までほんの後少し……がんばろう




