▽第50話 海軍拠点奇襲・奇襲
無人輸送機内でブリーフィングをしてから十分後。
再び窓の外に海軍拠点が見えてきた。約二時間振りの光景だ。
「降下するよ。降下後は僕が通信で合図したら一気に攻め入って」
機内に響く声。管理者は備え付けのヘッドセットマイクを使って告げる。
演習に見せかけた奇襲の実行が近付く。
「全員、武器をチェック。敵によって非殺傷モードと殺傷モードを切り替えながらの戦闘になる。武器の状態には常に気を付けろ」
奇襲実行の前にガイセイは注意事項を言う。
言われてなくても分かっているが、ここは一度自分の武器の状態を見ておく。
マルチプルエネルギーガンをメンテナンスモードへ変形。モードは殺傷モードになっている。
「戦いは撃つ前から既に始まっているってか?」
「そうだ」
私の独り言にガイセイが答えてくる。
「準備を行い、不備をなくせば、戦闘時のリスクは減り、なるべく戦闘に集中出来る。特に戦場では一瞬の判断が自分を生かす。しっかりとした準備で余計なことに気を回さないようにしろ」
「大丈夫。分かってるから」
最初に相手にするのは獣兵と見て間違いない。
殺傷モードから非殺傷モードに変えて、メンテナンスモードから通常モードへ変形させる。
準備は整った。衣服や体調にも違和感はない。
万全だ。
「地面が近い」
「そろそろですわね」
窓の外を見るシエルとホトバ。
キョウコも窓の外を見て「正門近くに敵の獣兵はいないようだな」と海軍拠点の様子を告げる。
「こりゃあ向こう側は建物内に固まっていそうじゃねぇか?」
「そうだな、バツザン。相手の獣兵は人間と同じ身体スペックだ。籠城し、集まっていた方が身体スペックの差を埋められるだろうよ」
抜山蓋世コンビの会話から出た、籠城の言葉。
ということは防御をかなり分厚くしてるはず。こちらが獣兵としての高い身体スペックを持っているとしても、分厚い防御の突破は簡単じゃない。
だったら――
「初手は私が先行して攻撃を引き付けよっか?」
「よし、それならアルクに先行を任せる。こちらはお前を囮にして、一気に基地に攻撃を仕掛ける」
「分かった」
相手の攻撃全てを私に集中させる。
これまでもたくさんの攻撃を避けてきた。私なら全てを避けられるはず。
「降下完了。僕の合図を待って」
戦術を考えている内に無人輸送機が地上に着陸した。
頭を切り替えて、管理者の合図を待つ。
「こちらは001管理者、002管理者に告ぐ。演習の準備完了。完了の返答次第、演習を開始する」
そのままなにをするのかと思えば、001管理者は002管理者に無線を送っていた。
≪002管理者から001管理者へ告ぐ。準備完了。演習を開始せよ≫
「こちら001管理者、了解。演習を開始する」
無線の内容は演習の開始連絡。
「001管理者から各員に通達。作戦開始、作戦開始」
そして作戦開始の合図。
演習に見せかけた奇襲が始まった。
「よし、行くぞ! アルク!」
「あいよ、ガイセイ!」
私は誰よりも早く無人輸送機から降りて、一気に正門から海軍拠点へ飛び込む。
基地の中心にある建物。その建物から外にはみ出した銃口、開かれた扉から現れる銃口と獣兵。
殺意が来る。
「来た!」
私に目掛けて光弾が一斉に来た。
「面白くなってきた!」
回避。次も、その次も、そのまた次も、次々迫ってくる光弾の全てを避けた。
今まで体験したことのない光弾の弾幕。もはや弾幕ゲーレベルの光弾の物量。
体の全身を当たり判定として意識し、目に映る弾幕のほんの小さな隙間へと入り込んでいく。
「私の弾幕ゲーはルナティックなのよね!」
こうも私の好きな同人の弾幕ゲーと光景が重なってくると、楽しくなってくる。
服や髪の端が焼かれるのでさえもギリギリを味わえて楽しい。
「ショット!」
回避専念から回避しつつ反撃へと移る。
「ぐぁぁぁっ!」
非殺傷モードで一人目を無力化。
「なんでこっちの弾が当たらないの!」
「うぎぃぃぃ!」
次も――
「ああぁぁぁ!」
その次も――
「があっ!」
そのまた次も――
「キャァァァ!」
「視察に来ていた奴の一人、なんて強さだ! うわああっ!」
次々に相手の獣兵たちを無力化した。
「アルク、一気に仕掛けるから! アタシの後ろに!」
「オッケー!」
シエルがシールドを構えて前に出てきた。
ガイセイが言っていた一斉攻撃を仕掛けるみたいだ。
ここは後ろ飛びでシエルのところまで後退。シールドで攻撃を防ぐシエルの後ろへ身を隠す。
「シエルも囮だなんて、攻撃に耐えられるの?」
「大丈夫。アタシだって強いから!」
言葉通りにシエルは強い。
襲ってくる無数の弾幕にビクともせず、防御姿勢を崩されることもなく、その場で攻撃を防ぎ続けていた。
「来るよ」
シエルがそう言うと、私たち二人の背後から建物に籠城した相手に向かって光弾の弾幕が飛ぶ。
一斉攻撃が始まった。
相手からの弾幕に負けず劣らずの弾幕。私が一人で攻撃するより何倍も早く、相手の獣兵たちを無力化していく。
「いいぞ、押している!」
「今だ! 一気に押し込むぞ!」
キョウコとガイセイの声。
こちら側の攻撃で相手の獣兵たちをかなり無力化し、攻撃が少なくなってきた。
今がチャンス。味方がドンドン前にやってくる。
「アルク、シエル、先行しろ!」
「了解、ガイセイ!」
抜山蓋世コンビとキョウコ、ホトバ、ヨワナシの全員も前に出てきた。
味方全体が正門からラインを上げてきている。
今が一気に押し込めるチャンス。ここで立ち止まる訳にいかない。
「私が先に建物に突入する。シエルは私を援護しつつ後から突入してきて」
「アタシも一緒に行けるよ?」
「ダメ、待ち伏せによってはシエルを助けられないから」
「分かった」
「ごめんね、行くよ」
「大丈夫。後ろから援護するね」
押せ押せの波に乗り、私とシエルは更に先行して建物へ接近。
そのまま建物内部へ突入した。
「さてさて……」
内部は先ほどの攻撃で無力化された獣兵だらけ。元気な獣兵は視界にいない。
「はーい、聞こえる? 私たちさ、君たちをここから全員連れ出すつもりなんだけど、私たちと一緒に来なーい?」
突入後、すぐに呼び掛ける。
すると「え?」と隠れていた獣兵が一人、二人、次々と顔を出した。撃ってくる気配はない。
「罠のつもり!? 大体002管理者はどうすんのよ!」
相手にしてみれば当たり前な疑問、当たり前な質問。
「002管理者? ぶっ飛ばすね!」
「それ本気で言ってるの!?」
「もちろん本気!」
こっちは素直な気持ちを乗せて答えた。
「あのクソ管理者を本気で……それなら行くわ! ほら、他のみんなも!」
上手く話に乗ってくれた。
隠れていた十人ほどの獣兵たちがぞろぞろと姿を現して寄ってくる。
攻撃しないで確保出来たのは大きい。
「アルク? 大丈夫そう?」
「私は大丈夫。それよりもこの子たちを後続に保護させて」
「了解なり。そっちの人たち、アタシに付いてきて」
後から突入してきたシエルに案内を任せる。
「聞こえるー? 君たちを全員連れ出すつもりなんだけど、一緒に来なーい?」
シエルが戻ってくるまで先行はせず、周辺を警戒しながら呼び掛ける。だけど反応する獣兵はもういない様子。
この周辺は無力化でぐったりしている獣兵たちと先ほど確保した獣兵だけのようだ。
これで確保出来る人数はざっと見て七十人以上か。
「うん?」
上からゴゴゴゴゴゴゴという音。空から来ている。
見上げると、ガラス張りの天井越しに空からの落下物が見えた。
とても見覚えがある。
「軌道降下ポッドだっけ、メガネ君が言っていたやつ」
初めての実戦で見た光景を今ここでもう一度見ている。
「正規軍の部隊もご登場か」
降りてくるのは連盟の機械兵士たち。今度は敵じゃなくて味方。
頼もしい反面、正規軍が来たことで演習に見せかけることはもう出来ない。
確実に002管理者が動き出すはず。
「アルク、後続に渡して来たよ」
「オッケー。そんじゃあ続き行くよ」
あの少女もここの獣兵も全員、002管理者から解放するためにも、絶対に作戦を成功させてみせる。




