▽第46話 002管理者
ドスケベで楽しい最後の休日。
シエルとホトバとの勝負の後、私も勝負に加わり、んぉぉぉぉっ♡♡♡の日は終わった。
次の日。
私たちは準備を終えた001管理者に呼び出され、管理部にいる。
「おはよう、みんな。体調はどう?」
「大丈夫! ベリーグッチョブ!」
「アタシもグッチョブです」
私とシエルは親指を立ててサムズアップ。
参加メンバーは他に――
「俺たちも大丈夫です、001管理者」
「万全だぜぇ」
抜山蓋世コンビに――
「私も準備万端です」
「アタクシも超オッケーですわ!」
キョウコとホトバ。
この前の実戦で出た分隊と同じメンバーが今ここにいる。
「みんな元気でよろしい! じゃあ、第一段階の作戦詳細を告げる」
そして第一段階の説明が始まる。
「第一段階は前に言ったように、002管理者指揮下の海軍拠点の偵察を行う。事前に演習地の視察に見せかける準備も済ませているから安全に偵察を行えるよ」
管理者の方は一週間の準備を無事に済ませた様子。
「まぁ002管理者は視察とか、見られることをとても嫌がるだろうけどね」
「なんで?」
002管理者が嫌がる理由。
私はすかさず気になって聞いてみる。
「002管理者は獣兵を物のように……いや正直に言うと、獣兵を奴隷にしている。一部の軍人や上流階級と結託して、獣兵を闇市に流すことで私腹を肥やしているのさ」
「見られると困るから嫌うってことね。こんなことよく知ってるね?」
「そりゃあ、002管理者の愚行は計画の関係者全員が知っているからね」
002管理者は腐っていた。
正しい倫理観を持っていて、腐ってない001管理者の下にいて本当に良かった。
同時に周知の事実なのに対処されてないのはとても不思議。
「まさか知っていて放置?」
「獣兵を闇市に流した関連人物全員を取り押さえるタイミングを待っているのさ。そして一週間の準備の末に、そのタイミングが来た」
連盟も腐っているかと思いきや――
「つまり今回は連盟との共同作戦になる」
連盟は獣兵計画を立ち上げて私たちを苦しめる元凶だけど、腐ってはいなかった。
「僕たちは002管理者の逃げ道をなくすために艦船の奪取を任されているから、準備はまさしく万全だよ」
002管理者を取り押さえるために連盟と協力。作戦中に合法的に盗んだ艦船で異世界へ逃げ出す。
バッチリ用意周到だった。
「さて、第一段階を始めよう」
001管理者は腰を上げる。
「今回は僕も行く。行こう、みんな」
第一段階の始まり。
私たちは001管理者の後を追って、002管理者のいる海軍拠点へと向かう。
※
001管理者と共にパイロット不要の無人輸送機に乗り込み、空を飛んで海軍拠点に移動。
数十分を掛けて海軍拠点が見えてくる。
「あれが海軍拠点……?」
「海軍なのに陸地ですわね」
「500m級の支援艦が停泊しているんだ。連中は海軍だぜ」
周りは全て陸地。海軍拠点だから海上や港を想像していたけど、全くの真逆だった。
海軍の要素はバツザンが告げるように連盟の500m級支援艦が停泊していることくらいだ。
「そろそろご対面だね。降りるよ」
001管理者は告げ、海軍拠点の正門前に着陸。
無人輸送機から全員降りる。
「アルク、ホトバ、キョウコの三人は付いてきて。ガイセイ、バツザン、シエルは輸送機で待機、002管理者が変なことしないように見張ってて」
「了解、001管理者。バツザンとシエルは周辺を警戒。俺は輸送機内のシステムを監視している」
「分かった」
「了解。索敵はアタシに任せて」
管理者の指示で私たちは三人一組の同行組と居残り組に分かれる。
頭の良いガイセイ、私と同じ猫型で戦闘力の高いバツザン、鼻の良さで索敵に長けたシエルなら輸送機を任せられる。
「あ、なんか来たよ」
「001管理者、あれですか?」
「そう、あれが002管理者。ちゃんと時間通りの出迎えだね」
基地の中から私たちのいる正門へとやってくる集団。
先頭にいるのは黒くゴツい見た目で紫に光る四つ目の機械兵士――002管理者。局部以外露出した獣兵たちを率いている。
「002管理者、上から話は聞いている?」
≪001管理者……いや、花乃椿博士。全部聞いている≫
「公の場で本名を言うのは禁止。それが計画の方針なんだけど、ヴィクター・アールゼイ中佐?」
≪黙れ。こっちは神人類星間統一連盟軍、中佐だぞ≫
初めて管理者の本名を聞いた。でも今は本名よりも、002管理者の横暴な態度と露出の激しい格好の獣兵たちが気になった。
「……っ!」
「ちゃんと立って、ほら」
下着ではなく装飾品で局部を隠す、全員女性の獣兵たちがひそひそ話す。
「アルク、あの子」
「うん」
ホトバも私も気付いた。
どうやら猫型の少女がヒールの高い靴に慣れない様子。足が不安定で今にも姿勢を崩しそうにしている。
「君、大丈夫?」
心配になって話しかけてみる。
すると、少女のみならず獣兵たち全員が怖気のある表情になった。
なんで怖がる?
そう思っていると、少女に気付いた002管理者が動き出した。
≪またお前か≫
「ひぃっ!」
少女の前に002管理者が来た。
その拍子に少女の姿勢が崩れて、膝をつく。
≪早く立て!≫
「は、はい!」
少女は慣れない様子で立つのに苦労している。
≪立てないなら立たせてやる!≫
「あぁぁぁぁっ!」
そんな様子にイラ立った002管理者が髪を無理やり引っ張って少女を立たせる。
扱いが酷い。001管理者が言っていた〝002管理者は獣兵を物のように扱う〟とはこういうことだった。
「無理に立たせないでやりなよ、その子慣れてないみたいなんだからさ!」
≪なんだと、お前?≫
私が言うと、紫に光る四つ目が睨んでくる。
≪獣兵の分際で管理者の俺に指摘するのか?≫
「そうだけど、なにか?」
≪ならば死んでくれ。お前みたいな管理者の言うことを肯定しない奴は嫌いだ≫
少女を投げ捨てる002管理者。語気からも殺気が出て、私にエネルギーガンの銃口を向けてくる。
「中佐、正当な理由のない殺処分は処分対象だよ?」
≪チッ≫
001管理者が告げて、002管理者は銃口を下ろす。
撃たれても避けるだけのことだけど、この場は撃たれずに済んだ。
しかしイラ立ちの収まらない002管理者はさっきの少女を一発蹴った。
抑圧的で暴力的。気に入らない光景だ。
≪ここを視察するんだったな? 好きに見ていけばいい、基地内の案内はここにいる獣兵に任せてある。じゃあな≫
そう言い残して、002管理者は戻っていく。
「管理者は行った?」
「もう大丈夫」
002管理者が去っていったタイミングで、まるで鬼が去るのを待っていたかのようにそれまで身動きしなかった獣兵たちが少女を心配して集まる。
つまり002管理者は彼女たちにとっての恐怖の対象。
私が少女を心配して声掛けしたのは完全に悪手だった。
「なんか、ごめんなさい。私が余計なことしたみたいで……」
謝る。
相手から向けられる目は冷たく、同時に諦めている。
そして少女が「ごめんなさい」と謝ってくる。
「そんな、謝るべきは私の方だから」
「気にしないでください。私が不慣れなのがダメなんですから」
理不尽なことをされているのに泣くこともなく文句も言わない態度。
本当に奴隷のよう。
「さぁ基地内を案内しますので、私たちに付いてきてください!」
少女は慣れない靴でなんとか立ち上がり、客人をもてなすような笑顔を見せる。
001管理者はその辛い笑顔に笑顔で応えるけど、私もホトバもキョウコも絶句するしかなかった。
「行こう、みんな。こんなことを終わらせるための一歩目のために」
管理者は告げる。
絶句している暇なんてない。
彼女たちの案内に従って、私たちは演習地の視察に見せかけた海軍拠点の偵察を始めることにした。




