▽第41話 化け物の街・戦闘
戦いが始まった。
赤色のガスを放つ化け物――鎮圧用生体兵器とやらに向けて全員で発砲を開始。
それぞれの銃器から放たれるエネルギーの弾幕が化け物の肌を貫く。
「まずは一匹」
「殺しましたわね!」
化け物が人間より何倍も大きかろうと所詮は生物。
穴だらけにしてやれば、あっという間に息絶える。
「ガスが来るぞ。上手く耐えろよ」
しかしガイセイが言うように化け物から放たれたガスはこちらに漂ってくる。
正面のガスはもちろん、背後や建物の隙間、この街全体がガスに包まれていると思えるほどにあちこちからガスが漂ってきていた。
「このガスの範囲、避けようがなくない?」
「開幕で倒せなかった敵との交戦距離はつまりガスの範囲内だ。どの道、戦う時はガスに耐えるしかないのさ」
「そういうことかい、ガイセイ。だったら耐えてみせるわ」
耐える。そう決めて、範囲を広げるガスに私たちは包まれた。
「な、なにこれ?」
もちろん全ての敵を倒すまで呼吸を止めている訳にいかず、呼吸してガスを吸った。
すると体が内側から熱くなってくる。
それも風邪ではない、体の熱さ。心音が高鳴って変な気分になってくる。
「クソ! なんか変な気分だぜ!」
「アタクシもなんか変ですわ」
バツザンもホトバも私と同じ状態。シエルとキョウコは無言で妙に色気のある表情をしていて、様子がおかしかった。
「耐えろ、抑えろ、俺たちの今するべきことは生体兵器を殺すことだ」
理性が置いていかれそうになる。
ガイセイの言う通りにこんな気分は抑えないといけない。
シエルを、みんなを、変な目で見ている場合じゃない。
「早くやっちゃおう。結構ヤバいかもだから」
私は建物と建物の隙間から、先ほど敵を見かけたビルの向こう側へと向かう。
この気分の解消は全部敵を殺してからだ。
「アルク、援護するよ」
「アタクシも手伝いますわ」
シエルとホトバが付いてくる。
「俺も手伝おう。キョウコは索敵、バツザンは周辺の偵察だ。効率よく殲滅するぞ」
「了解です」
「はぁ……分かったぜ」
ガイセイも戦闘に加わる。一方でキョウコとバツザンは戦闘よりも次の敵を探すことに集中した。
「あそこ、一気にいくよ」
ビルの向こう側へ移動すると、すぐに敵を発見。
さきほど見つけた敵はあまり移動していなかった。
「準備オーケー」
「いつでも撃てますわ」
「発砲準備よし。行けるぞ」
見つけたら、後は殺すだけ。
一度の攻撃で手早く殺すために三人と攻撃の息を合わせた。
「今!」
発砲。息を合わせた集中攻撃を浴びせて、敵が行動を起こす前に殺す。
「二匹目をやりましたわね」
「この調子で、全部――」
私は言葉も思考も止まった。
死んだ敵の姿。四つに割れて開いた口から、無数の触手が見える。
「わたし……」
心臓が飛び出しそうな心音。駆け巡る体の熱。
触手の中に入りたい。メチャクチャになりたい。
耐えられない衝動が頭に走りまくる。
もう私の足は化け物の触手へ歩み出していた。
「敵の中を見るな!」
ガイセイの怒鳴り声。とても遠くのように聞こえて、どうでも良い。
すると今度は強い力で引っ張られた。
視界から触手が消える。
「な、なに? 今、私は!?」
「大丈夫みたいだな」
視界にあるのはガイセイの顔。
今まさに脳内にあった、すさまじい衝動はなくなる。
「ガスの効果だ。いよいよ効果が出てきたって訳だな」
「これがガスの効果……」
そういえばガイセイは〝ガスを吸うと化け物の口に入りたくなる気分にさせられる〟という感じのことを言っていた。
その意味はこういうことだったのか。
危うく全身モザイクレベルの公共に流せない乱れた姿を晒すところだった。
「シエルとホトバは!?」
「そこだ。二人共引き戻している、大丈夫だ」
指差された方向に視線を移し、シエルとホトバを見る。
二人の状態は興奮状態――というよりは発情という方が正しいか。
そんな状態だが、言葉通りに無事だった。
「ガイセイは大丈夫なの?」
「お前たちがいるから耐えられる」
「それ、どういう意味さ?」
「あんな兵器とヤるくらいなら、お前たちの方がってね」
「わぁお」
頭の良い精神の保ち方だけど、勃起しながら性欲を向けられると結構ドキっとする。
まぁこんな状況だから仕方ないか。淑女たるもの、そっとしておこう。
「にしても口の中の触手を見た時の気持ち……どういう仕組みなの?」
「さぁな。ただ管理者から聞いた限りだと、ガスで認識を歪ませてくるらしい」
「それで口の中に誘惑されるって?」
「そういうことだ。ガスに脳を侵されている間は触手にメロメロになるのさ」
仕組みを聞いてみたら、まさに新手の催淫ガス。
まさかエロ本にあるようなものを現実に受けるとは思わなかった。
「はぁ……戦闘が大変になるね、これ」
「化け物の口の中を見なければいいだけだ。口の中を見せてくる前に殺せばいい」
「それはそうだわな」
殺す前に口の中を見せられたら、戦闘どころではない。
だから先ほどのように敵が行動を起こす前に一気に殺せば良い。
幸いなことにやり方はもう分かっている。
「よし、戻るぞ」
私たちは来た道を戻り、耳で索敵中のキョウコと偵察を終えたバツザンに合流。
「そっちはどうだ?」
「既に三体ほど位置を特定しています、ガイセイ教官」
「こっちは目視で二体見つけた。案内は出来ると思うぜ」
索敵と偵察の結果は良好な様子。
順調に物事を運べていて、一分隊五つの敵撃破の目標は簡単にやれるかもしれない。
「ガイセイ、孤立している敵から潰そう。孤立してない敵は複数を相手にしない位置取りで戦うのがいいと思う」
用心して私は提案。
口の中を見ただけでもアウトなのだから、二体同時は相手に出来ない。
全員の火力で確実に一体一体を即座に殺していくしかない。
「俺もそう思っていたところだ。キョウコ、シエル、敵の位置を把握しろ。片付けるぞ」
提案は受け入れられた。
私は早速移動を開始する。
「孤立している敵の位置は?」
「この道を右に行ったところに一体だけいるぞ、アルク」
「うん、キョウコの言う通り右には一体だけみたい。逆に左の方には三体いるっぽい」
「なるほどね」
キョウコとシエルは告げる。
もちろん行くべき場所は右の孤立している敵。警戒しながら歩いて、殺しに行く。
「見つけた、あそこ」
そして移動の末に、こっちにお尻を向けている敵を見つけた。
この状況なら口を開いたとしてもお尻を向けているから、すぐに触手は見えない。
とても好都合。攻撃のチャンスはまさに今だ。
「撃っちゃえ!」
「撃ちまくれ!」
私とガイセイの発砲合図。
一斉射撃を繰り出し、こっちに口を向けてくる暇も与えずに一気に殺す。
「よっしゃ、やった!」
「注意! 背後で動きあり!」
「後ろ、こっちに向かってきてる。今は振り向かない方がいいかも?」
キョウコとシエルは告げる。同時にほんのり感じる振動と大きい足音が背後から寄ってくる。
「分散して、まずは周辺の建物に隠れる?」
「ならば分散、隠れた後は各自で攻撃するぞ。触手は見るなよ?」
「よし、みんな行くよ!」
私たちは背後にいる敵を見ず、一気に散開。周辺の建物へ隠れる。
「アルク」
「あ、付いてきたの……って!?」
「あ、アタシたちに付いてきちゃったね」
シエルが付いてきたと思ったら、敵まで付いてきてしまった。
おまけに敵はその巨体で私とシエルが隠れる建物を揺らし始める。建物のおかげで見えている部分が足元だけなのはありがたいことだが、このままだと建物が倒壊しそうだ。
「脱出して敵の背後を取るよ、シエル!」
「うん!」
建物が倒壊してしまう前に裏の方へ脱出。
そのまま敵の触手を見ないように背後を取ろうと迂回していたら、複数の発砲音が一気に聞こえてきた。
「あら、攻撃してる……」
十数秒の発砲の後、発砲音は止まった。そのすぐ後に先ほど隠れた建物は倒壊、派手に煙と音を出していく。
「仕留めたっぽいね。とにかく今は合流しよう」
「待って」
「まさかのまさかの?」
そんな倒壊の派手な振動と音。それらに混ざり、また別の振動と音がする。
「敵、来るよ!」
シエルがそう告げたと同時に建物の倒壊じゃない別の振動と音の正体がやってきた。
それはドスンドスン一生懸命に走っている敵だった。
「うぇ!? アイツ走れんの!?」
敵は私たちのことを発見せず、素通り。発砲と倒壊のあった方へ走っていった。
「音とか、様子の変化にちゃんと反応するんだなぁ……」
「今は感心してる場合じゃないでしょう?」
「おっ、そうだわ。敵の後を追ってくかぁ」
今はみんなとの合流と敵の殲滅が最優先。
私たちは触手を見ないように、敵の背後を付いていく。
「スゲー近いけど、私たちだけの火力でやれるかな?」
「やってみる?」
「やってみちゃう?」
私とシエルは敵の背後を付いていきながら武器を向ける。
マルチプルエネルギーガンのセレクターを2に変更し、チャージしていく。
「攻撃、今!」
「っ!」
発砲を開始。
まずは最大チャージのエネルギー弾を叩き込み、敵の表面を溶かして内臓を露出。
そこからセレクターを1に変更。シエルが発砲するイズレットマシンガンと一緒に一段階チャージの弾を連続で敵の内臓に叩き込む。
「敵、もがいてる!」
「シエル、攻撃を継続! これで殺し切るよ!」
流石に火力不足か。すぐに死なない。
それでも、このもがくような動きは効いている証拠。
このまま火力を叩き込んで――
「殺し切った!」
こちらに口を向けてくることもなく、敵は死んだ。
意外となんとかなった。
「あぁぁ……ぁ……」
敵を倒すと、誰かの声が聞こえた。隣にいるシエルのものではない。声の方向からして今まさに殺した敵の中から聞こえてくる。
「え、声……聞こえるよね?」
「そうだね」
私たちは殺した敵に近付く。
どこから聞こえてくるのか?
よくよく見ると敵の口から人の手と猫の獣耳が出ていた。
「まさか他分隊の人!?」
「触手にやられたようだね」
敵に捕まった獣兵の誰か。
助けたいが、助けるということは口の中の触手を多少なりとも見ることになる。
またあの衝動にやられて正気を失うのではないか?
「うーん……」
しかしガイセイは私たちとヤることを考えて正気を保っていた。
つまり触手を見た時の衝動よりも強い感情を抱ける相手がいれば良い、ということ。
これに賭けてみるか。
「ねぇ、触手でおかしくなっちゃったらさ……触手でメチャクチャになる代わりにシエルでメチャクチャになってもいい?」
「……変態。でも、別にいいよ。ウェールカムだよ?」
よし、許可は貰った。
これで触手を見ても耐えられるかもしれない。
「それじゃあ口の中にいる他分隊の人を助けるわ」
「触手で正気失っちゃうよ?」
「大丈夫! 正気を失う前にシエルとヤること考えるから!」
「それでアタシと……」
「そういうこと。じゃあやるから、シエルは見ないでおいてね」
「うん……」
許可のついでに理解もしてもらった。
後は敵の口の中から他分隊の獣兵を救出するだけ。
私は死んだ敵の正面、開かれた口へと向かう。
「う……っ!」
開かれた口の中の触手。目にハートを浮かべていそうなアヘ顔の獣兵が触手に体を擦り付けている。
私も、目の前で気持ち良くなっている獣兵のようになりたい。
また衝動がやってくる。
「私はシエルと……!」
違う。そうじゃない。
私はシエルで気持ち良くなりたい。嗅がれて、弱点も気持ちいいところもモロバレで頭の中を真っ白にして、エロ顔全開でエッチがしたい。
想像しただけでもエロい! 触手でメチャクチャになるよりも数百倍だ!
「エッチ! ドスケベ! エロパワー!」
衝動を全部自分好みのエロに塗り替える。
そうやって敵の口の中にいる獣兵を掴んで、力いっぱいに一気に引きずり出した。
「助けたー!」
「ナイスだよ、アルク!」
他分隊の獣兵の救出に成功。
駆け寄ってきたシエルと二人で他分隊の獣兵を死んだ敵から離れたところへ運ぶ。
「大丈夫?」
「あ、あへぇ……♡」
「ダメっぽいね、これ」
心配して聞いても他分隊の獣兵はアヘアヘしたままだ。
「みんなも気持ちよくなってるよぉ……♡」
アヘアヘして話しが通じないと思いきや、急に意味深なことを告げる。
「それはどういうこと?」
「えへ、えへへへ、みんなも気持ち良くなってるのぉ♡」
「もしかしたら、この人の分隊は全員捕まったんじゃないの?」
つまり全滅か。
最悪の場合、他の二分隊は全滅しているかもしれない。
「……シエル、みんなとの合流を急ごう。これはうちらの分隊だけで敵を全滅させないとダメかもしれないから」
「そうだね」
最悪の場合に対応するために、私たちは救出した他分隊の獣兵を連れて、ガイセイたちとの合流を急いだ。
 




