▽第40話 化け物の街・接触
空は曇り。目の前にある光景は廃墟の街。
私たちは他の二分隊と合流後、拠点から5kmほど移動。廃墟と化した街のSIERRA地点に到着した。
「ここがSIERRA地点か」
シエルとバツザンが見つかった場所――SIERRA地点。
ふと「シエルとバツザンはここで見つかったんだよね?」と二人に聞いてみる。
「あぁ、もう半年以上のことだけどな……」
「最初の時は一緒だったよね、アタシとバツザン」
「そうだったな。目が覚めたら近くにいたのは覚えているぜ」
「あの時から比べてバツザンは様変わりしたよね。こんなモヒカンじゃなかったし、人畜無害な見た目をしてた」
「お、おい、その話は!」
二人の話しを聞いていくと、バツザンは最初からモヒカン小太り世紀末野郎ではなかった様子。
気になって「最初のバツザンはどんな感じだったの?」と質問してみた。
「うーん、まず髪型は普通だったよ。体型は今とあまり変わらないね。服は学生服で、顔は本当に人畜無害という感じ。なんというか……可愛かった」
「可愛かった!? こんなやべー奴の具現化みたいな見た目で、今にもヒャッハーしそうなモヒカン小太り世紀末野郎のバツザンが可愛い!?」
バツザンが可愛い。衝撃だった。
今のいかつい格好、雰囲気からはまるで想像出来ない。
シエルの感性がおかしいのか?
気になり過ぎる。
「可愛かったって、どんな?」
「マスコットみたいな感じ。お腹がちょっと出ていて、ゆるっとしてた」
「へぇー……」
バツザンを見る。
「なんだよ? あんまり見るんじゃねぇよ」
シエルが言った最初のバツザンの特徴を今のバツザンに頭の中で当てはめていく。
確かにゆるっとしていてマスコット的な可愛さはあるかもしれない。
「確かに最初の俺はそうだったかもしれねぇが、だからってナメるなよ?」
「アルク、そこまでだ」
ガイセイが会話に割り込む。
その顔はいつもの笑っているような悪人面ではなく、珍しく真面目な表情だ。
「それ以上は古傷を抉る行為だ」
「ん? どういうこと?」
「イジメさ。そうやってバツザンは今の姿になった」
「なるほどね」
事情を聞けば、ガイセイが答える。
どうやら容姿のことで暗いことがあった様子。
危うく踏み込んではいけない部分に踏み込むところだった。
「こんなところでもそういうのあるんだね」
「人が集まればそういうこともある。幸いなことに他者をバカにして暴力を振るう連中は既に土の下で永眠しているがな」
つまり死んでいるということ。
ここの環境が良いのはそういう連中が既にいないからだろう。
「さて、来るぞ」
ガイセイは視線を私から空へ移し、言う。
直後、空気が震えるほどの轟音が訪れ、空に開いた穴から戦艦が現れた。
「大きい……」
「連盟の1000m級巡洋艦だからな。デカいのは当然さ」
3000年代の現代では当たり前なワープ航行。そんなワープ航行で現れたのは連盟の巡洋艦だった。
次はこんなバカデカいのが相手なのだろうか?
私は様子を見る。
「巡洋艦から落下物!」
キョウコがそう言うと、連盟の巡洋艦から楕円形の物体が街の中に落ちていく。
そのサイズは1000m級の巡洋艦からしてみれば小さいが、たぶん10mほどの大きさがある。
「全部で十五個。キリの良い数のターゲットが落ちたな」
「どうする? 一分隊五つずつ担当する?」
「そうね、全員固まって倒すよりも分散して倒す方が効率いいと思うわ」
他分隊のリーダー格とガイセイは話し合う。
そのまま他分隊に視線を移すと、女性だらけで男性の姿はない。
今ここにいる男性は抜山蓋世コンビの二人だけだった。
「本当に女の子だらけ……」
他分隊のメンバーを見ていると、何人かと目が合う。
ただ目があって反応がない子もいれば、目を逸らしたり、恥ずかしがって顔を隠す子もいた。
「全分隊、街の中へ移動だ。これより分隊各個に分散してターゲットを撃破する」
そうして他分隊を見ていると、リーダー格同士の話し合いは終わったようで、ガイセイが話し合いの結果をこの場の全員に告げた。
「聞いての通りよ。ここからは分隊各個でターゲットを撃破、全員行くわよ」
「こっちも行くぞ! 他分隊の分も取る勢いで倒していこうぜ!」
言葉通りに他の二分隊は分かれて街の中へ入っていった。
「俺たちも行くぞ。この戦いで、俺たちの強さを証明してみせるんだ」
ガイセイは言う。
強さを十分に証明出来たら次の段階へと更に進めることが出来るだろう。
この計画を終わらせるためにも願ったりなことだ。
私たちは先に街へ入った他分隊に続いて、街の中へ入る。
「ふーん、誰かが住んでる様子はないね」
「まぁ街全体が廃墟だからね」
「仮に住んでいたとしても生きてはいないですわよ。このSIERRA地点はよく戦場になりますもの」
街は外側から見た様子に違わず無人の寂れた廃墟。
ホトバの口振りからして住むのも無理そうだ。
「ん? ターゲットに動きあり」
「あ、この臭い……金属から違うものが出てきてる」
街のことを話している、その時にキョウコの耳とシエルの鼻に反応があった。
「二人共、距離は?」
「近いぞ。かなり近い」
「うん、キョウコの言う通り近いよ」
敵はどこか?
私が二人に聞いた直後、近くでゴドンッとなにかが重々しく開いた音が聞こえてきた。
しかし音の正体は見えない。
「ひょっとして目前のビルの裏とかにいたりして?」
私は試しに建物と建物の隙間から向こう側を見てみた。
「……いたわ」
「え?」
ビルの向こう側に見える人肌と肉の色。廃墟の街並みの一部ではない。
しかも大きい。10mほどだと予測した通りの大きさで、この得体の知れないなにかは建物の向こう側でゆっくり動いていた。
「ビルの向こう側にいる!」
「いや、ビルの向こう側だけじゃないぞ! あっちからも来てやがるぜ!」
バツザンは言い、指を差す。
指差す方向は道路の曲がり角。そこから得たい知れないなにかが顔を出した。
「へぇーマジモンの化け物じゃん?」
私がビルの向こう側に見たのと同じ色の化け物。
その骨格はトカゲに近く、しかし顔のない胴体と四つに割れた口が一体になっている形状はワームに似ている。
その上、口を開けば無数の触手がこんにちは。怖さよりもエロさが目立つ化け物だ。
「連盟の鎮圧用生体兵器か。アイツは前に戦ったことがあるな」
ガイセイは知っている口振りで言う。
これなら話が早い。
私は早速「どうだった?」と聞く。
「大きさに見合う体力があって殺すのは手間だったな。それよりアイツの放つガスが一番の手間だ。吸った瞬間、アイツの口に入りたくなる気分にさせられるからな」
なんだその催淫ガスは?
そう思った瞬間、今度はブォォォォォンという不穏を誘う音が脳に響いてきた。
「うっ、なにこれ……!?」
途端に意識が体の外へ引っ張られるような気持ちの悪さが走る。
「これ、アポカリプスシステムだっけ……?」
「そうだ、シエル……管理者は精神波状意識支配システムとも言っていたが……」
「耐えろよ、アルク。連盟はこのシステムで生体兵器を制御しやがるが、人間の精神にも影響するからな」
みんなも気持ち悪そうにしていて、化け物を制御するシステムの影響に耐えている。
だから私も耐える。こんな計画を終わらせる前にリタイアする訳にはいかない。
「あら、敵がガスを放っていますわ!」
「連盟の制御下に入ったな。敵がこっちを認識してくるぞ、全部ぶっ殺せ!」
連盟の制御下に入った。化け物がガスを放つ。
システムは役目を終えたのか?
そこから一気に気持ち悪さが引いていき、調子が元に戻ってくる。
「全く……やってやる!」
全員が武器を化け物に向け、私も殺傷モードのマルチプルエネルギーガンを向ける。
実戦が始まった。




