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▽第34話 強者の固執

 実戦から後日。

 管理部を出た後、自室で軽いトレーニングをしてから眠りに付き、私は目を覚ます。


「……」


 ベッドにはいつも通りシエルがいる。

 可愛く、美しい寝顔。彼女に対して愛おしさはある。

 でも撫でて、愛でる暇はない。


「がんばらないと……!」


 時刻は午前の四時。

 私はシエルに構うより先に体を起こして、軽いトレーニングを始める。

 もっと戦場で動くために。もっと強くなるために。


  ※


 軽いトレーニング後、シエルとはなにも話さず、支度。

 それからはいつもの訓練とトレーニングが始まる。


「今日はトレーニングですわ! さぁ行きますわよ!」


 まずは朝の部。前にやったのと同じ要領のトレーニング。

 いつものように教官のシエルとホトバに従い、トレーニングを進めていく。

 前だったらキツいと思っていたところを今は無心になってトレーニングをやっている。

 体力が付いてきたということか。強くなっているという感覚はあった。


 そうやって朝の部のトレーニングを終わらせた後は朝食。

 なにも話さず、無心で朝食を食べていく。

 唯一話したのは「実戦を経験したのだから、もう一度模擬戦をやりましょう」というホトバからの模擬戦の申し込み。

 私は自分の実力試しと向上のために「いいよ」と模擬戦を受け入れ、さっさと朝食を終わらせる。


 昼の部は戦闘訓練室で模擬戦。

 相手はまたホトバだ。


「行きますわよ」

「来なよ」


 初期位置について、模擬戦が始まる。


「顔付きが変わりましたわね! それなら最初から本気で行きますわー!」


 ホトバはイズレットマシンガンを撃ちながらの突撃を繰り出す。

 これに対して、まずは攻撃を回避しながら距離を離す。

 あの痛覚をなくした突撃と怪力は脅威。接近されて捕まったら終わりだ。


「なんですのー? また回避から始めるんですのー?」


 マルチプルエネルギーガンのセレクターをRに変更。

 攻撃の回避、離した距離の維持、それらと同時に非殺傷モードのマルチプルエネルギーガンの引き金を引く。


「んふっ♡」


 ホトバを狙って連続で放つ光弾。

 しかし今回のホトバは猪突猛進だけでなく、突撃の足を止めずに回避もしてきた。

 こちらの攻撃が全弾ヒットとはいかない。

 私だけでなく、ホトバも強くなっている。


「アタクシだって何度も実戦をこなし、何度も突撃隊長をやってきた最強の一角なんですのよー!」


 最強の一角。言うだけのことはある。

 実際、痛覚なく戦えるのは痛覚の許容限界で勝敗を決める模擬戦において最強だ。

 彼女に勝利するには身体が限界になるほどのダメージを与えないといけない。非殺傷で

限界に追い込むのは難しい。だけどやれないことではない。


「フフ……そんなに眉間にしわを寄せて、まるで死人に引っ張られた顔ですわね」


 マルチプルエネルギーガンのセレクターをRから1へと変更。

 今のホトバには連射を犠牲にした一撃の大きい二段階チャージを撃っても避けられる。

 だからある程度の連射と火力を両立出来る一段階チャージに変える。


「せっかくの可愛い顔が台無し!」


 引き金を引いてチャージ。

 冷静にホトバが放つ弾を見切り、距離を離しつつ一段階チャージの光弾を放つ。


「戦場での死人なんてアクション映画で死ぬ人物の命と同等! 戦いを盛り上げる演出と思えばいいんですのよ!」


 とんでもないことを言いだすホトバに初弾を避けられる。


「そんなこと思えない! みんな、実際に生きているのに!」


 チャージした次弾。

 ホトバに気持ちをぶつけるつもりで今度は当てる。


「……じゃあ自分の心が壊れていいって!? 共に戦って簡単に死んでいく一つ一つの命に責任感じながら自分は普通に生きられると思ってるっての!?」


 お嬢様口調の消えたホトバの言葉。

 まるで気持ちをぶつけに来るように、攻撃を当ててもホトバの足は止まらない。


「だからって、一緒に戦う人が死ぬのを軽く見るのは違う!」

「くっ! 自分を壊すのだって違うだろ!」


 仲間の死に責任なんて感じるな、ホトバはそう言っていると理解出来る。

 それでもみんなの死を軽く思いたくない。ゲームのただのNPCじゃなく、実際に生きている人間なのだから。


「戦えば誰か死ぬ! テメェの采配がどうだろうと関係ねぇ、撃って撃たれてが始まったら死ぬ時は死ぬんだよ!」


 何度チャージした弾を当ててもホトバは止まらない。

 縦巻きロールの髪が解け、性格が変わったように長髪となった姿で迫ってくる。


「それを分かれ、アルク!」


 全力疾走で猪突猛進のホトバ。当ててるのに勢いが衰えるどころか更に増し、このままだと追い付かれて捕まる。


「分かるけど……!」


 それなら追い抜かせればいい。

 追い付かれる直前、手を伸ばしてくるホトバに捕まる前に、私は逆にホトバに接近。

 そのまますれ違うようにしてホトバの背後へ移動する。


「人の命はそこまで軽くしていいものじゃない!」


 勢いのつけ過ぎでガラ空きなホトバの背後。そこに一段階チャージのエネルギー弾を連続して叩き込む。


「私にとってホトバの命も軽くないんだから!」


 ホトバが倒れるまで攻撃の手は止めない。


「それなら、アタシが死んだらどうするよ……?」


 こちらの攻撃を受けながらもホトバは振り返る。

 そしてその手から武器が落ち、彼女は膝をついた。

 決着が付いた。攻撃を止める。


「アタシの亡骸の前で泣くのか……? ちゃんと立ち直れるのか……?」


 ホトバの優しく熱い瞳。目と目が合う。


「アタシが思ってないのに、テメェは死なせたから許されないとか勝手に思うのか?」

「それは……」


 答えられなかった。

 確かに仲間が死んで、許されないと勝手に思ったかもしれない。


「私がもっと強くなれば、そんなことを思わないで済むはずだから」


 だからといって仲間が死んだのは自分の実力不足が原因だ。

 私が全てを終わらせることが出来れば誰も死なずに済む。


「テメェがどれだけ強くたって全部をどうにか出来る訳ねぇよ」

「いや、どうにかしてみせる」

「バカ野郎がよぉ……」


 こうして昼の部の模擬戦は終わった。


 その後は昼食、座学の夕方の部、夕食。

 そしてあっという間に夜になる。

 自分の部屋へと戻り、夜目が効くから電気を点けずに暗いままの室内を歩いていく。


「疲れた……」


 疲労感が襲ってくる。

 ベッドに身を投げたい。

 もはや寝支度している余裕もなく、私は自室のベッドに身を投げて目を閉じた。

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