▽第30話 実戦・偵察フェーズ
鳴り響く警報。天から落ちてくる軌道降下ポッド。
敵となる者が上空から降り、実戦の始まりを警報が告げる。
「地図持っている人、それとALPHA地点に詳しい人、いる?」
頭の中は戦闘モード。戦いを少しでも有利にするため、私は降りてくる最中の軌道降下ポッドから目を離さずに指示を出す。
「あるよ! この端末に地図入ってる!」
ミックがALPHA地点全域を画面に表示した携帯端末を見せてくる。自分たちの現在地まで表示されていて、とても見やすい。
まず地図はよし。
次は土地勘だ。
「ALPHA地点に詳しい人は?」
「ウチらは分からん」
「一応ALPHA地点で行軍訓練したことはあるけどね」
「ミックも分からない。ここそんなに来たことないから」
「困ったわね。私も詳しくないわぁ」
「僕も詳しく知りません。行軍訓練で通った範囲なら分かるんですが……」
この場にいる全員、土地勘を持っていなかった。
つまり地の利はない。それは相手も条件は同じはず。
地図があるだけでもありがたいと思った方がいいかもしれない。
「来た」
天から地上へと降り来る軌道降下ポッドが森の中へ入る。
敵がALPHA地点に降り立った。遠くから地響きが来る。しかし距離はかなり遠く、戦闘する距離ではない。
「ミッケ、キョウカ、敵を感じたらすぐに教えて」
「分かったわ。しっかり聞き耳を立てているわね」
「フ、ウチの鼻に任せな」
ミッケとキョウカの索敵能力に秀でた身体特性。
ミッケ――キツネ型は一番の特徴として距離がかなり離れた場所の些細な音でも聞き取り、対象を発見出来る優れた聴覚を持っている。
そこに犬型のキョウカの優れた嗅覚が加われば非常に敵を発見しやすくなる。
「みんな、敵の降下地点に向かうよ」
索敵はミッケとキョウカがいるから万全。
私が先頭に立ち、地図を頼りにしながらALPHA地点の森の中を移動する。
「皆さん、武装は大丈夫ですか? 安全装置は外せていますか?」
移動中、メガネ君に言われて武器の安全装置に気付く。
今一度マルチプルエネルギーガンをメンテナンスモードに変形。確かめてみると、今は非殺傷モード。しかもセレクターはSAFEで安全装置は外れていなかった。
「おっと危ない危ない」
これでは撃てないし、撃てたとしても殺しに来る相手を殺せない。
敵に〝安全装置が掛かっているぞ、ルーキー〟とか言われてしまう。
すかさず非殺傷モードから殺傷モードに変更。セレクターは二段階チャージが出来る2に切り替える。
「私はオッケー、みんなはどう?」
「僕は大丈夫です。いつでも撃てます」
メガネ君は準備万端のようだ。
では他はどうか?
「ゲッ! ウチの銃、粒子発生器付け忘れてんだけど!」
「キョウカ、私の予備を使って」
「気が利く! ありがとっ!」
ヨワナシのフォローがあってキョウカも大丈夫。
後はミッケとミックだ。
「安全装置よし。装填よし。私は大丈夫よ」
「ねぇミッケ、ミックのエネルギーガン撃てる状態になってる?」
「うーん……これはちょっと分からないかも」
スコープ付きの身長並な大きさのスナイパーっぽい武器を持つミッケは大丈夫だが、標準武器のエネルギーガンを持つミックの方は怪しい。
助けられるなら助けたいが、私もエネルギーガンの仕組みは分からない。
どうしたものか。そう思っていると、メガネ君が「見せてください」と助けに入った。
「これ、この部分が安全装置なんです。押してみてください」
「あ、光った」
「これで撃てる状態です」
これで全員の武装は準備万端。
メガネ君が役に立つ。
もしやミリタリーオタクか?
「メガネ君」
「なんですか?」
「もしかしてミリオタ?」
「えぇ、はい。映画作品から入った身ですけどミリオタです」
「やっぱり! 武器に詳しい訳だわ!」
聞いてみたら、やはりミリタリーオタクだった。
兵器、戦争の知識があるだろうから最大限知識を使わせてもらおう。
「あ、みんな!」
「ウチも感じたわ」
メガネ君がミリタリーオタクと分かったところで、ミッケとキョウカがなにかに反応し始めた。
「敵?」
「たぶん? ウチらや自然の匂いじゃない、金属みたいな香りがするんだわ」
「私の方は遠くから駆動音、土を踏む重たい足音が聞こえてきたわ。もしかしたらこちらを探しているんじゃないかしら」
金属の香りと重たい足音、駆動音。
この情報からして、管理者が言っていたように機械兵士が相手で間違いない。
「メガネ君、今の二人の話を聞いてどう思う?」
「事前に管理者から聞かされていましたが、敵は機械兵士で間違いありませんね」
でも私は機械兵士の姿を見たことあるだけで詳しくはない。
だからメガネ君に聞くことにした。
「私の中では映画とかで出てくる、やられ役のイメージがあるんだけど?」
「機械兵士は戦場の主役ですよ。一機一機に人間の意識がありながら身体スペックは生身の人間以上、しかも同一意識の入ったもの全てを破壊しなければ同じ人間の意識の機体が何度でも現れる。こんなのが大量にやって来るんですから脅威そのものですよ」
機械兵士は映画やアニメだと大量に出てくる、やられ役。
弱くて大量に出てくると思っていた。メガネ君の話を聞くとそうではなかった。
冷静に考えて、機械兵士の代替である私たち獣兵が普通に強いのに代替元の機械兵士が弱い訳がないのだ。
「ん? なんか、違うのが分散している気がする」
「あら、さっきとは全然違う音も聞こえてくるわ……上に上がってる?」
キョウカとミッケは言う。私にはどういうことか分からない。
今度もメガネ君に「上に上がるものってなにかある?」と聞いてみた。
すると――
「まさか偵察ドローンでは!?」
こちらの位置を探りに来るドローンの登場だ。
すぐさま「みんな隠れて!」と指示を出し、私たちは周辺の木々と草むらに隠れた。
位置が知られた時の脅威はゲームで嫌というほど経験している。位置バレすれば決め撃ちや壁抜きもされて、撃ち返せず一方的に殺されるのだ。
リスポーン出来るゲームならまだしも、一人一つしかない命でそんなことされる訳にはいかない。
「ドローンにも機械兵士にもサーマルセンサーがあります。こんなのバレますよ」
ゲームでも見たことあるサーマルセンサー。白黒で敵がハッキリ表示されて見やすくなるやつ。確かにしっかりとした壁がないと見つかるだろう。
「発見まで遅延出来ればいいの。まずはドローンを見つけて撃ち落とすよ」
それでも隠れて発見までの遅延をしている間に撃ち落とせばいい。
「ミッケ、キョウカ、そのまま耳と鼻で敵とドローンを探して。ミックとヨワナシは目視で地上の敵を、私とメガネ君は目視でドローンを探すよ」
指示を出して、それぞれが動き出す。
「上からの音が近付いてくるわ! 気を付けてねぇ!」
「私たちの正面の上! 確かに来てるわ、これ!」
そしてミッケとキョウカがドローンの接近を告げた。
「メガネ君、よく見ていてよ」
「分かってます。死ぬ訳にはいきませんから」
メガネ君と共に正面上空を見張る。
まだドローンの姿は見えない。
そのまま身を隠して見張っていると、なにかの機械音がほんのり聞こえてきた。
「この静かなブイーって音……メガネ君、これがドローンなの?」
「そうです。でも、この音が聞こえるということはもうかなり近くにいますね」
「マジかよ」
既に近くにいるドローン。
どこにいるのか、見つけるのに集中する。
「……っ?」
聞こえてくる音を辿って上空を見上げていると、青空の景色の中になにやら黒い点みたいなのが通り過ぎた。
風はそんなに出ておらず、葉っぱではないスピード。
私は自然物に見えない黒くて小さい物体を目で追う。そうやって目で追っていると急に物体が空中で静止し始めた。
「すぐそこに音が聞こえるわ!」
「匂いが近いよ! マジで!」
ミッケとキョウカがそう言う最中、空中で静止する物体の正体が次第にハッキリ見えてくる。
それは、機械だ。
「ドローン!」
遠くから近くに寄ってきた機械音。近くにいる機械。
視界にいる小さく黒い物体こそ偵察ドローンだ。
「そこっ!」
すぐさまマルチプルエネルギーガンのセレクターをRにして、チャージなしの連射モードで撃ちまくる。
おもちゃレベルであまりに小さいけど、撃ちまくったおかげでなんとか偵察ドローンに命中。小さい爆発を引き起こさせて偵察ドローンが地面にポトリと落ちた。
すかさずメガネ君が落ちた偵察ドローンを確認しに行く。
「壊せた?」
「やりました! 壊せてます!」
確認したメガネ君が偵察ドローンの破壊を告げた。
「これ……足音が近付いてくるわ! たぶん走ってきてるわよ!」
「ホントに来てる、ウチらの正面から匂いがすごい近付いてくる!」
次は敵の接近をミッケとキョウカが告げた。
偵察に出したドローンが破壊されたら、破壊された付近に敵がいると気付くのは普通のことだ。
「なっ、バレましたよ!?」
「スーパールーキー、どうしよう!」
しかし位置バレしたとはいえ、常時私たちの位置は把握されていないはず。
「この場所をキルゾーンにする! 誘い込んで、一気にぶっ飛ばすの!」
だから位置がバレたのを逆手に取る。
敵に追い込まれる状況から、敵を殺しやすい位置に誘う状況にするのだ。
「みんな、狙いやすい場所に隠れて待機! 敵が来たら派手に歓迎してやろう!」
全員で隠れる位置を変更。
正面から来るだろう敵を狙いやすい位置で待ち伏せる。
「さぁ、来なよ」
息を潜めて敵を待つ。銃口を前に向けて、殺気を尖らせながら。




