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▽第22話 嫉妬の夜

 時刻は夕方を過ぎた夜。

 ホトバとシエルによる緩い座学を終えて、今日のやることは全て終わった。


「終わった」

「飯行こ、飯!」


 他の新人の子たちが第三多目的室を出ていく。

 もう夕飯の時間だ。

 私もシエルと夕飯食べたいな、なんて思っていたらシエルが丁度良く手を繋いできた。


「夕食、行こ」

「うん!」


 察してくれて嬉しい。

 私はシエルに手を引かれて、一緒に第三多目的室を出た。


「お待ちなさーい!」


 と、ホトバも第三多目的室から出てきた。


「ホトバ?」

「アルク、アタクシも行きますわー! というかシエルも片付けをやりなさいですわ!」


 どうやらシエルは片付けを放置して私と食堂に向かうつもりでいたようだ。


「ぷい」

「ぷい、じゃないですわ! あなたも……いや、まさか、抜け駆けですのー!?」

「アルク、早く行こう」


 黙って聞いていれば、まさかの私の取り合い。

 ハーレム展開始まったのでは?

 なんていう中々にふざけたことを思ったが、どうやら本当にそういう展開のようだ。


「待って、シエル。ちゃんと片付けてから行こうよ、私も手伝うからさ」

「……うん、分かった」


 私はシエルを引き留めて片付けをやることにする。

 ハーレム展開はとても嬉しいが、私を理由に他を疎かにするのはシエルにとっても良くない。

 だから年上の私がしっかりして、やるべきことを終えてからやりたいことをやるようにした。


「ありがとうですわ、アルク! さぁシエルも手伝って!」

「分かってる。早く終わらせるよ」


 私たちは第三多目的室に戻り、ホトバとシエルは妙に気合を入れて片付けを早く終わらせていった。


  ※


 夕食。食堂にて。

 いつも通りに席を確保し、ホトバとシエルと一緒に食事をしていた。

 でも朝食、昼食の時と雰囲気は違う。


「今日は格別夕食が美味しいですわ、なぜでしょう?」


 私を見つめる、ホトバの熱い視線。ご飯を貪り食べていた朝食と昼食の時と違って、今は食べ方が上品だ。


「アタシは早く食べ終えたい気分」


 シエルの方は朝食も昼食もご飯を美味しく味わっていたのに、今は急ぎめでガツガツと食べている。


「アルク、良かったら食べさせてあげますわよ」

「え、なに? あーんってやつ?」

「そうですわ。アタクシの気持ちごと食べてくださいまし」


 ホトバが中々大胆なことを言ってくる。

 そこにシエルが「ダメ。アタシがやる」とホトバに対抗してきた。

 まさに取り合い。

 生きている内にこうも気持ちの上がる光景が見られるとは思っていなかった。


「じゃあシエルとホトバ、順番に私に食べさせてよ」

「いいですわよ。先手はシエルに譲ってあげますわ」

「オッケー。アルクはアタシのものにする」


 そうやって先にシエルから半分に切れたゆで卵が箸で運ばれてくる。


「あ、あーん……」

「あーん」


 シエルの恥じらい。顔を少し赤くさせて周りに視線を向けて周りを気にしながら、私に食べさせてくれる。

 ただただ愛おしい。


「次はアタクシですわ。さぁ、あーんしてくださいまし」

「うん、あーん」


 ホトバの恋人みたいな表情。もう半分のゆで卵が口に運ばれる。

 こっちはこっちで恥じらい半分嬉しさ半分の笑みを浮かべていて、可愛い。


「さぁどっちがお好みかしら、アルク?」

「アルク、アタシだよね?」


 もぐもぐ食べながら思うことはどっちも良かったということ。

 二人のどっちにも優劣はなく、どっちも剛速球でストライクゾーンに入って来た。

 だから「どっちも良かった。好き」と感想を素直に告げた。


「どっちも……?」

「うふ、一歩前進ですわね」

「だ、ダメ。前進しないで」


 どちらもが愛おしい。

 そんなこんなで夕食のひと時は過ぎていく。


  ※


 夕食を終えて第七兵舎にて。

 夕食を食べ終えた後、ホトバと解散。それぞれの部屋へ戻り、寝支度をして、後は今日の終わりを寝て待つだけ。


「今日は楽しかったなぁ……疲れたけど」


 自室のベッドで横になったまま今日を振り返る。

 ホトバとの出会い、キツいトレーニング、本気の模擬戦と特濃なキス、ホトバから向けられた好意、ハーレム展開。

 新人どころか先輩たちでさえ夜逃げする、ドス黒い職場で働いていた時からは想像も出来ない出来事の連続だ。


「これからも楽しいといいな……」


 明日は明日の風が吹く。

 私は部屋の電気を消し、夜目で周りがよく見える暗闇の中、ベッドで目を閉じる。

 明日に向けて寝ようとする。そんな時、自室の扉が開いた。


「アルク?」


 扉が開いて聞こえてくるのはシエルの呼び声。


「なーに、シエル? 今日も一緒に寝る?」

「うん……」

「おいで」


 昨日、一昨日、シエルはずっと私と寝ている。

 そしてベッドに誘って、今日も一緒に寝る。

 だけど今日は雰囲気が違う。

 ベッドに入って来たシエルがまた甘えてくるかと思えば、私の上に覆い被さってきた。


「ど、どうしたの?」


 シエルは私をくんくんと嗅ぐ。

 座学ではその鼻の良さで健康状態や心理状況を読み取れるだとか言っていた。

 つまり私は今、シエルに色々読み取られているのだろうか。


「ホトバの匂い……エッチなキス、したの?」

「えっ?」


 嗅がれただけで、模擬戦の時にされたホトバからの特濃なキスがバレた。

 本当に読み取られている。


「したんだよね?」

「いや、したっていうか……された、かな」

「アルクはホトバが好き?」

「好きだよ。でも、まだそういう関係じゃないからね?」


 シエルの尋問。それに加えて覆い被さってきた状態で、強い力で押さえ付けられる。

 私の身動きは許されない。ただ尋問に答えるしか出来ず、答えるごとにくんくんと嗅がれて噓か本当か読み取られる。


「……アタシはアルクが好き。ホトバには渡さない」


 中々大胆な宣言。

 シエルもホトバに劣らず大胆なことをしてくる。


「ホトバが大胆にアルクを染めるなら、アタシはアルクを染め直す」


 そこから始まるのは私が予想していない大胆なこと。

 近付いてくる愛らしい顔。ちょっぴりドキッとしている間に唇と唇が重なり、シエルの舌が私を求める。

 染め直すという宣言通りに、シエルはホトバの特濃なキスと同じキスをしてきた。


「待って、シエル」


 まさか濃いキスをしてくるとは思わず、シエルのキスから一旦逃れた。


「……やっぱりアタシとは嫌? ホトバの方がいい?」

「あ、違う違う! 私としては結構ウェルカムだよ」

「じゃあなんで、止めたの?」

「いきなりだったからビックリしただけ。それとシエルの気持ちを聞きたいの、シエルも私に恋しているのか……」


 踏み込んで質問してみる。

 ホトバ同様に恋の気持ちがあるか、どうか。


「恋は……分からない。でもホトバに取られたくない」


 シエルは質問に答えた。

 本人が分からないと言うのだから、私にも分からない。ただ取られたくない一心であることは分かる。


「シエル、大丈夫。私はどこにも行かないよ」


 そう言うとまた嗅いできて、噓か本当か読み取ってくる。


「じゃあキスはいらない……?」


 噓ではない本当の気持ち。嗅いでくれて理解してくれる。


「うーん、たっぷりキスしてほしいかな?」


 シエルがまたまた嗅いでくる。すると今度はジト目で反応、私の気持ちに気付いたようだ。


「エッチ」

「えへへ、欲まみれのお姉さんでござんすよ」

「でもね、好きだからいいよ」

「えっ」


 ジト目を崩し、気を許した笑み。

 エッッッッロと思うと同時に再びキスが始まった。

 私を求めるシエル。彼女の熱を受け入れ、深く入り込むキスを受け入れる。

 激しくない。ゆっくり確かめ合うように、気持ちと一緒に絡め合っていく。


「んっ……」

「……はっ」


 一度唇を離し、私とシエルの気持ちが繋がったまま唾液の糸を引く。


「アルク」

「なに?」

「アンのように置いていかないで……約束」

「うん、約束。一緒に生きようね」


 死なない約束。

 私たちは一線を越えないまま気持ちを高め合い、その内に寝付く。

 夜は深くなる。深くなった先に朝の光が輝く明日が待つ。

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