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▽第21話 乙女の秘め事と座学

 模擬戦が終わり、体が動かせるまでの小休憩を挟んで休憩室へ移動。

 私とホトバは休憩室に複数ある長イスに横になって休んでいた。


「ねぇ」

「どうしましたの?」

「なんでキスなんてしてきたの? あんな、激しく……」

「あぁ、あれですの。あの熱くて特濃なキスはアタクシがあなたの喉を握り潰す代わりと思ってくださいまし」


 模擬戦の時のディープなキス。

 私のことが好きでどさくさ紛れにしてきたキスなのか?

 そんな少々ドキドキした乙女心な少女漫画的感性で聞けば、物騒な殺意を隠した怖い答えが返ってくる。

 ホトバが言う、実戦だったら引き分けという意味。つまりホトバは穴だらけ、私は喉を潰されて死んでいるということなんだろう。想像もしたくない。


「まぁでも、興奮はしましたわ。あのまま勢い任せで行くところまで行きたい、なんて思いましたもの」

「それは、私とキスして欲情したってこと?」

「お恥ずかしながら……」


 感情のジェットコースター。

 さっきの答えで怖いなぁと思っていれば、ドキドキな乙女心が戻ってくる。しかも体が熱くなるような色欲のおまけ付き。


「行くところまで行って、みる?」

「…………」


 段々と物欲しくなる気持ちのまま試しに提案。

 ホトバからすぐに返事はなく、少しの間を置いて「誘わないでくださいまし」と返事が来る。


「アタクシの心、自分でも止められなくなりますわよ」

「どういうこと? ちょっと気になるんだけど」

「じゃあ教えて差し上げますわ」


 そう言ってホトバは立ち上がり、長イスに横になったままの私の前へとやって来る。

 なにを教えてくれるのだろうか?

 そう思っているとホトバが顔を近付けてきて、そのまま唇と唇が触れ合った。

 濃くないキス。気持ちを伝えるような触れ合いだった。


「あんなキスした後なのに、アタクシを拒否しない……それどころか誘ってくる、そんなあなたに恋の気持ちを注ぎたい。そういう気持ちですの」


 まさかの告白。ホトバの胸の内には恋心があった。


「アタクシ、自制するのは苦手ですわ。これ以上誘うなら本気にしますわよ?」


 そして警告。これ以上踏み込んだら、一線を越えて私とホトバの百合カップルが強制的に完成する。

 もちろん恋人同士になるのは嫌ではない。だけど私の方にあるのは色欲だけで恋心はまだない。心の準備だって出来ていない。


「ごめん、私ってばエッチなことばかり考えてた。恋なんて全然考えてなかった」

「別に構いませんことよ」

「でもね、ホトバのことは好き。まだ私は恋を知らないけど、話していて楽しいし、見た目も綺麗だし」


 恋の感情はないけど好意はある。

 エッチな視線でホトバの体ばかり見ている訳じゃない。


「もう、そんなことを言って……自制出来なくなったら押し掛けて、たくさん発散させてもらいますわよ?」

「いいよ。私は受け入れる」

「全くあなたは……まぁ分かりましたわ」


 ということでホトバの恋をお預けにして乱れた関係は維持した。

 我ながら最低だ。でも彼女の恋に追い付けない恋愛を始めれば、ズレた恋愛をしたまま納得しない終わり方が待っている。それに色欲から来る興味は止められない。


「さて、次は夕方の部――座学ですわ。始まるまでまだ時間がありますから、くつろいでいなさい。アタクシは教官として他の子たちを見てきますわ」

「うん。また後で」

「また後で、大きな猫さん」

「にゃんにゃん」


 恋を曖昧にしたままだが、ホトバは笑みを浮かべて休憩室を出ていった。

 ギスギス感はない。安心する。

 私はこのままここで休んでいよう。まだ昼の部は終わっておらず、シエルを待つ必要もあるのだから。


  ※


 時間は過ぎて、夕方の時刻。

 夕方の部。座学の時間。

 私は第三多目的室で座学を受けていた。もちろん教えてくれる教官はシエルとホトバの二人だ。


「最初の授業はアタクシたちそれぞれの身体特性についてお教えしますわ」


 対して教えてもらう側の新人は私を含めて十人程度。全員女の子で全員に獣耳と尻尾が生えている。

 見渡すと猫型の女の子が多い。


「まずは猫型。最近一番数が多くなった個体ですわね。今ここで座学を受けているのも猫型が過半数を占めますわ」


 やはり猫型が多かった。

 そう思っていると、シエルが「猫型は回避重視の身体特性」と説明を始めた。


「他の種類よりも高い動体視力と反応速度、瞬発力、跳躍力と走行能力など高い身体能力で敵弾を捉えて避けられる。だから回避重視で戦うのが猫型の基本。夜目が効くから追加装備なしで夜間戦闘も昼間と同じくらいに可能」


 この三日間の経験とシエルの説明。

 照らし合わせて分かる。

 飛んでくる弾をハッキリ目視して避けられたこと。全く運動してこなかった私がかなりの速度で走れたこと。夜の暗闇でも周りの光景がよく見えたこと。

 その全てが猫型としての身体特性。猫耳と猫の尻尾に違わず、私は猫型だ。


「ただし全力を出した場合の持久力は低いですわ。そこが猫型の数少ない弱点で、訓練によってある程度補える弱点でもありますわ。以上が猫型の身体特性ですわ」


 猫型の身体特性についての説明は終わった。


「次は教官含めて、この場に三人いる犬型を説明致しますわ」


 次に始まるのは犬型の説明。

 犬型に該当するシエルが「犬型は斥候能力に長けた身体特性」と再び説明を始める。


「高い嗅覚での敵の探知、広範囲でも位置を探り当てる能力。全力で走っても持久力があるから長時間走れる。だから移動を伴う偵察、後退する敵の追撃、隠れた敵の撃破が犬型の基本。猫型と同じく夜目が効くから夜間の行動も追加装備なしで十分可能だよ」


 敵を探し出す鼻の良さと長時間走れる持久力の犬型。

 見た目は可愛くとも中身は猟犬というところか。


「ちなみにその鼻の良さで相手の健康状態や心理状況を読み取れ――」

「そこまで! 弱点は猫型やブタ型みたいに正面戦闘が得意じゃないこと。敵弾を捉えての回避は出来ない。以上が犬型の身体特性だよ」


 シエルがホトバの口を押さえて、なにやら不自然に説明を終わらせた。

 猟犬かと思っていたら可愛い印象が戻ってくる。

 今日もシエルが可愛い。


「次はブタ型で――」


 グダグダで緩い座学。

 残りの種類の説明を聞きながら座学は夜まで続いていった。

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