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▽第17話 実戦に向けて鍛える今日と失言の朝

 実戦があるという緊張を持ちながら部屋に戻り、ゆっくり休んでからの翌日。

 私が自分の部屋――先人の部屋で目を覚ますと、カーテンの隙間から入る光に照らされたシエルの寝顔が視界に入った。


「……可愛い」


 私に密着して寝ているシエル。幼い子供のような寝顔と犬のふわふわな耳。

 可愛いものを詰め合わせたような子。

 こんな子を死なせる訳にも、私が死んで悲しませる訳にもいかない。


「ん……」


 シエルが目を覚ます。

 起きて早々にくんくん嗅ぎ、開け切ってない目が私の目と合う。


「おはよ、シエル」

「おはよう……」


 彼女の眠たげな挨拶。


「今日はなにする?」

「訓練とトレーニング」

「実戦が、あるから?」

「うん。001管理者から聞いたぁ?」

「聞いたよ、昨日の呼び出しでね」


 シエルをなでなでしながら話していく。

 どうやら彼女も実戦があるのを知っていたようだ。


「今は何時?」

「六時だよ」

「寝過ごした……」

「えへへ、私の懐が気持ちよすぎたかな?」

「…………」


 私の冗談に対してシエルはなにも言わず、ただ視線を逸らした。

 分かりやすい。とても分かりやすい。

 本当に私の懐が気持ち良かったみたい。口角が思わず上がっちゃうほど嬉しいね。


「早く着替えて訓練とトレーニングに行こう」

「はーい」


 視線の次は話題を逸らしてきた。

 可愛い子だこと。お姉様風の脳内セリフはともかく、私は今日の予定に向けて支度を始めていく。


  ※


「ジャーン!」


 パッと支度を終えて、お披露目するのは昨日選んだ三着の内の二着目。

 昨日が萌え袖パーカーな制服の学生気分なら、今日は軍服ワンピースで軍隊感マシマシな軍人気分。キョウコのノースリーブタイプとは違って、私のは袖付きである。


「どう? 可愛いでしょ!」

「あれ、キョウコのよりスカートが短い?」

「イエス! 可愛い重視だぜぇ!」


 昨日の萌え袖パーカーな制服と同じ、ミニスカートレベルの短さだ。もちろんスカートの中身を見られても大丈夫なようにスパッツで見せパンにしてある。

 このアルク、女の子としての防御に抜かりなし。


「さぁこれで準備万端! いつでも行けるよ!」

「じゃあ行こう。善は急げ、怒られる前に急げだよ」

「よし、出発出発!」


 いざ出発の時。

 今日は軍服ワンピースに合うミリタリーじゃないブーツを履いて、外へと出る。


「戸締りヨシ」

「早く早く」


 指差しで部屋の戸締りの確認。ちゃんとロックされている。

 確認した後は急ぎ足。どこで訓練とトレーニングするか分からないけれど、遅れないようにシエルと一緒に急ぐ。


 急ぎ足でトコトコ移動してから十分後。


 私たちは整列した人の集団へと到着。

 もちろん萌えアニメみたいに女の子だらけで、そこに男は誰もいない。


「遅いですわ、シエラ805! 新人ちゃんも遅い!」

「ごめん、ホテル31。寝過ごしちゃった」

「なーにが寝過ごしちゃったですって……いや、まさか、早速新人ちゃんと一つ屋根の下でイヤンなことを……破廉恥ですわー!」

「違う違う」


 女の子たちの前に立っているリーダー的な女の子がシエルと話す。その容姿は世にも珍しいピンク髪の縦巻きドリルロールでまさにお嬢様。服装までしっかりお嬢様してる。


「うはー……」

「あん? 新人ちゃん、なんですの?」

「いやぁ天元突破してそうな髪型だなって」

「なんですのー? アタクシは熱血ロボットじゃなくて、熱血お嬢様なんですのよー?」


 あ、この人絶対観てる。しかも口調ヘンテコお嬢様で、なんか絡んでて楽しいなぁ。

 そう思いながらホテル31の頭の獣耳を確認。すると、お嬢様の印象とは真逆の印象がある獣耳が生えていた。


「まさかブタさん?」

「はん!?」


 おっと考えていることが口から漏れ出た。

 私の失言に対してホテル31はビックリ、周りの女性たちの視線が全部私に刺さる。


「え、今、新人が教官のことをブタって言った?」

「ヤバいって……」


 周りからドン引きされている。

 私、なにかしちゃいました?

 流石にしちゃいましたよねぇ、これは。


「アタクシに生えてる耳がブタさんだからってバカにしないでくださるー!? ブタさんだってピンクで可愛くて、お鼻がとってもキュートなのですからねー!?」

「そうだそうだ!」

「ブタさんは可愛いんだぞ!」


 いつもの土下座フォームにチェンジ。

 職場で働いていくために心の中身を切り捨てて軽くした頭を地面すれすれに下げる。


「先ほどの失言、大変申し訳ありませんでしたーッ!!」


 必殺の全力土下座謝り。

 喉を痛くするほど声をデカくして迫力満載の謝罪になり、相手はちょっと怯んで許しを与える必殺の土下座。これで職場での極限全開な叱責をずっと避けてきた。

 さぁどうだ! ここでは通用するか?


「ま、まぁ、誠意は伝わりましたわ……」


 聞こえてくるのはホテル31の声だけ。周りの女の子たちはなにも言わない。

 通用した。こうもあっさり通用してしまっては笑っちゃダメでも口角が徐々に上がってしまう。


「と、とにかくですの! シエラ805は教官役、新人ちゃんは周りの子と一緒にトレーニング。分かったらすぐに始めますわよー!」


 謝罪に成功した私は土下座フォームを解除。ニヤけるのを我慢した普通の表情で、私はその場から立ち上がる。


「アルク、なんでも土下座は良くないよ。謝るとしてもプライドはあった方がいいよ?」

「プライドは職場で死にました」


 そうして周りに合わせてトレーニングを開始。

 まだまだ貧弱で、か弱い少女な私の体をシエルとホテル31の指導の下で鍛えていく。

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