結構、この世界つら…い?
「飯、ここに置いとくぞ。しっかり食えよ」
重く閉ざされたドアの向こうから15年ほどの付き合いとなる、親しみのある声が響く
数秒もしたら声は足音に変わり、だんだんと音は小さくなっていく
小学生の時から愛用している木製の椅子から足をおろす。
腹いっぱいになってからでもいいのではないか。それも、親の手作りとあらば尚更。そんな甘えに近い考えが頭から離れなくなってしまったためだ。
「残したら、なんて言われるかわかったもんじゃないしな」
紐で縛っていた手を器用にほどいて自由に動かせるようにしてから、ゆっくりとドアを開ける。
足元を見ると長方形のおぼんが置かれていた。中心には目玉焼きの乗った大きなお皿が置いてあり、両サイドには豆腐とネギの入った味噌汁と白いご飯が置かれている。
そして、目玉焼きにはあらかじめ塩とコショウが振り掛けられていた。
「わかってるじゃん」
おぼんごと持ち上げ、また部屋の中に戻る。
昼頃まで電気がついたままの部屋は、ただでさえ大部分をベットに支配されているにもかかわらず、ラノベが大量に入っている大きな本棚やフィギュアを飾っておく棚、勉強机などがひしめき合っており実際に歩けるエリアが一畳ほどしかない。
「本買うようになる前はまだ広かったんだけどなぁ」
独り言を呟きながらおぼんを勉強机に置き、運び出していた椅子を元の机の前に持ってきて腰を下ろす。ここがオレの、自分の部屋での定位置だ。
目の前にあるノートパソコンを机の端によせ、先ほど置いたおぼんを目の前に持ってくる。
おぼんの中にある箸を使い、遅めの朝ごはんを食べ…
「ゔぉええぇえ」
食べられなかった。
食べようとすると、頭の中に17時間前の出来事がフラッシュバックしてくる。
頭から離れてくれない嫌な記憶。トラウマと化したその記憶は、オレの睡眠だけでなく食事さえも許してはくれない。
「もう、やだよ…」
当代に無理やり、青碧さんだったものを見せられた衝撃はそれほどのものだった。
死体と呼ぶにはあまりにも壊れすぎているそれは、もはや肉塊だった。
というのも、ただ車に撥ねられて死亡した訳ではなく、足の先から車に潰されるようにして死亡したためだ。
あたりには果物を潰した時の果汁のように血が飛びちっている。
もちろん血だけではない。内臓も同じように漏れ出していた。
赤と呼ぶにはあまりにも黒く、グロい内臓。もちろん教科書で見るような内臓の形を保っているのは腸らしき長細い臓器だけであった。
その他のものは全てごちゃごちゃとぐちゃぐちゃしていた。
足先から頭までそんな死体がどうしてすぐに青碧さんだと分かったのか。
「あんな綺麗な碧色の髪。見間違えるわけないもんな。人違いなんてあり得ない。あり得な、、ゔぉえ」
肉塊の頭があったであろう場所には、綺麗な碧色をした長い長い髪が散乱していたのだ。
改めてあれは青碧さんだったと理解する。
理解しようとすると、それを理解してはならないと本能が吐き気でかき消そうとする。
家に帰ってからはそれの繰り返しであった。
そして、トラウマはトラウマを呼んだ。
「母さん…」
大切な人の死を体験するのは今回が初めてではない。
三年前、小学生から中学に上がるという時期にオレは母さんを亡くしている。
「そういや、母さんも事故死だったな。」
どうやらオレは事故に好かれているらしい。
二度も大切な人を事故で失った。
オレの死因も事故になるのではないかと馬鹿げた考えが浮かぶ。
事故死が一番腹がたつ。
昨日まで、数時間前まで、数分前、数秒前まで話していた人物が一瞬で一生会えなくなる。
ただでさえ後悔が絶えなくなる癖にその場に立ち会えば、一生物のトラウマを植え付けられることになる。
それに、今回に関しては母の時のように克服して前に進むことはできそうにない。
「やっぱ辛えわ、この世界ハードすぎ。」
これから先、この世界でこんな物を背負っては生きていけないと改めて実感する。
心が決まると、いつもより数倍は軽い腰を上げ、先ほどまで座っていた椅子を持ち上げ、移動させる。
もう一度、手を縛り上げて途中で怖気付いてやめるなんて事ができないようにしようか迷ったが、今はもう自分の手を縛っている時間さえ嫌になってくる。
移動した先には天井から紐が伸びている。
椅子に立つとちょうど目元に紐が来るようになる。
「母さん、青碧さんオレもいくよ。残してごめんな父さん」
思い切り椅子を蹴るとすぐに苦しさが喉の辺りからじわじわと広がってくる。
今まで味わってきた苦しさに比べると少々生ぬるいように感じる苦しさはやがて吐き気へ変わる。
じわじわと命が締め付けられるのを本能で感じる。
すると本能は死を望む理性を超えて死を全力で拒もうとする。
本能が全力で死を拒んだ結果、オレは走馬灯を見せられる。
PPW 18日目 青碧実家にて
「そういえば、青碧さんお誕生日もう少しですね。」
「あ〜そういえばそうだね。”3月7日”だもんね」
「そういえばって…」
「それにしてもよく覚えてたね。」
「常識ですもの。」
「常識…なのか?えっと、ミライの誕生日は”9月2日”だよね?」
「はい!そうです!!」
「おおぉ、びっくりした」
「すみません、つい覚えてもらっていることが嬉しくて」
「まあ、記憶力には自信あるもんで」
「青碧さんは、誕生日に何が欲しいとかありますか?」
「う〜ん?彼氏とか?」
「冗談はいいですから」
「バレたか。えー、胸とか?バスト65は女としていくらなんでも悲しすぎるよ…」
「そうですか、何か欲しいものができたら言ってください。とりあえず、オレは美味しいケーキを焼けるよう練習しとくんで。」
(胸の大きさ気にしてる青碧さんかわい゛い゛い゛いいいいいいいいいいいいいいいよおおおおおおおおおおおぉ!!そして真面目に小さいのもかわいいいいいいいい!刺さるうううううううううううううううぅ)
「僕もそれ手伝おうか?」
「いえ、結構です。爆発しかねませんので。」
「僕をなんだと思ってるんだい!?」
「神」
「え?なんで神格化されてんの?」
「あっ、すみません。忘れてください」
「はっ…」(もしかしてさっきの「神」って「疫病神」って意味の神!?話の流れ的にそうゆうことだよね、それしかないよね!?)
「大丈夫ですか?手がプルプルしてますよ?」
「大丈夫、大丈夫。逆に、ミライはなんか欲しいものってあるの?」
「青碧さんが欲しいです。」
「冗談はいいから」
「……特にないですね」
「ほんとぉ〜?」




