最悪に効く万能薬
「ありがとうございました。」
「うん、また何かあったら…ってもう卒業するんだよね。おめでとう」
「お世話になりました」と三年間の礼を残し、保健室を出る。
いまだにジンジンと痛む後頭部をさすりながら目的地もないまま、とりあえずの気持ちで歩き出す。
「イテテ、保冷剤もらっとけばよかったかな。」
当代に思いっきり突っ込んだおかげで鼻から大量の血が吹き出し、周りがちょっとした騒ぎになった。
そのため、保健室に半強制的に運ばれたのだ。詰め物をして少し休んでいたら鼻血もすぐに治った。
念の為に、思い切りぶつけた後頭部も診てもらったが特に目立った傷やたんこぶは出来ていないそうだ。
今回の事件の張本人である当代も、その騒ぎに駆けつけた先生によって職員室に連れて行かれていた。
「クソ当代め…」
思えば、先ほどまでの一連の出来事はまさにオレが当代を嫌う理由がすべて詰まったような物だった。
思い出すだけで腹が立ってくる。
幸い周りに生徒はいないためイラついた事を隠す必要もない。不機嫌全開で廊下を闊歩していた。
すると、すぐ横を通りかかった大きな影に声をかけられる。
「なんだなんだ〜?んなあにを、そんな『いま苦虫噛み潰しましたよ』みたいな顔してんだ〜?」
「ピリオド先生…」
その大きい影の正体は遠目に見えていた時からわかっていた。この辺りに190cmの人間なんてこの人くらいしか居ないだろう。
基本的にあだ名で呼ばれているため名前は覚えていなが、苗字は「里小戸」という珍しい苗字をしている。
そして、「りおど」では読みずらいということになり最終的に「ピリオド先生」に落ち着いたという経緯がある。オレの担任だ。
「あれ?そういえば、ピリオド先生はどうしてここに?」
「どうしてって…あぁ、当代くんのことか」
「それ以外に何がありますか。」
ピリオド先生には三年間、保健室の先生以上にお世話になった人だ。
というのも先生は唯一、この学校の中で当代をしっかりと叱ることのできる人物なのだ。
ピリオド先生は身長が高いだけでなく、体格も凄まじく中学から大学のまでの間を少林寺拳法に費やしてきたそうで、中学生の問題児程度では全く歯がたたない。
そのため、当代が暴れるたびにピリオド先生が呼び出され当代を無力化し職員室で最低一時間は、『力の在り方』や『慈悲心』についてなど語られるというのがいつものお決まりパターンとなっている。
だが今回は、当代がピリオド先生に捕まってからまだ20分ほどしか立っていないはずだ。釈放があまりにも早すぎる。
「ちょっと…というかめっちゃ、、だいぶ、、、かなり、、、、いろいろ大変なことが起こってな…」
珍しくピリオド先生の歯切りが悪い。そもそも当代をこんなにも早く釈放させたというだけでも今までありえないことなため、相当なことが起きたことは想像に容易い。
(大丈夫かな…青碧さんには何もないと良いけど)
最初に心配候補に浮かんでくる人物はもちろん青碧さんである。というか、それ以外の人間に心配するほどの心は持ち合わせていない。
(なぜなら、配れる心をすべて青碧さんにあげたからn
ピリロリロン!!! ピリロリロン!!!! ピリロリコン!!! ピリロリロン!!!!
不意にピリオド先生のズボンのポケットに入っているスマホが鳴り出した。
スマホに気を取られ思考が中断された。着信音、一瞬変じゃなかったか?
鳴り出したと同時に、ピリオド先生から冷静さが抜け落ちたかのように慌てふためく。スマホすらまともに握られないようだ。ぷるぷるしている。
(結構大変な事になってるっぽいし、ここにいても邪魔になるだけだろうな…)
それに、ピリオド先生を見ていたら一つやりたいことができたのだ。
やりたいと思ったことはやれる時にやれるだけやるオレはなるべくそれを心がけている
「どうせ写真撮影も終わってるだろうし、最後に教室でも見に行こうかな」
当代のことはもう運が悪かったと割り切るしかないだろう。今からぐちぐちいったところで何にも変わりはしない。
もちろん、腹が全く立っていないといえば嘘になる。今も少しムカムカしている。
だが、そんな時の対処法をオレは知っている。
ムカムカな感情以外にも様々な負の感情に効く万能薬である。
例えば、恐怖のどん底や哲学の最深部に辿り着いた時などにだって使えてしまう。それは、
「楽しい事を考える!!」
PPW 18日目 青碧実家にて
「他にも転生はね、方法があってね…」
「わかった、わっかた。もう十分聞いたよ、もう2時間くらいぶっ続けで話してんじゃん『異世界』って単語に関しては348回も出てきたよ。ちょっともうそろ話題変えよ」
「すみません。つい異世界熱が入ってしまって、、、」
「まあ、好きなもののことになったそうなるのもわかるんだけどね。流石に二時間はちょっと…」
「では、次の話題はどうしましょう。」
「じゃあ、聞いてみたかったこと聞いていい?ミライはさMBTIって知ってる?」
「MBTI?あぁ!あの人間を16に分ける性格診断のやつですね。」
「そうそう!ミライやったことある?」
「いや、ないですね。MBTI至上主義者が燃やされているのをよく見かけ、あまり関わらないように生きてきたので。」
「まあ、MBTIを信じすぎて…って話はよく聞くけど、こういうお遊び程度なら楽しい娯楽の一つだと思うんだ。いっちょやってみない?」
「わかりました。確か七段階で答えれば良いんですよね。」
数分後
「はい。出ました。あなたの性格タイプは”指揮官”です!!」
「おー、ちなみに青碧さんはなんだったんですか?」
「え?僕?僕は、”仲介者”だったよ。」
「なるほど、ちなみに、、、仲介者と指揮官の相性ってどうなんでしょうか?」
「うーん、普通だって。まあ悪くはないみたい」
「悪くなくてよかったです。」
「まぁ悪かったとしても、僕はミライがいなきゃ生きていけないから。嫌われないよう努力するけど」
「人の初恋、奪っといて何言ってんだか。」
「ん?なんか言った?」
「いえ、ただ。オレも嫌われないようにしないとな、と。」
「ハッハッハッ!僕がミライのこと嫌いになるわけないじゃん。こんなに好きなのに。」
「ーッ!そゆとこですよ…」
「え?」(はっは〜ん、さては僕に惚れちゃたかな〜。この広い世界に男女二人何も起きないはずもなく的な?)
「いや…ないな…」(もうそろそろ現実見ろよ、僕。さっきの「そゆとこですよ」は、「そうゆうとこが嫌いなんですよ」って事に決まってんだろ!?現実から目を背けようとすんな!!)
「も、もうそろそろ次の話題行こうか…」
「そうですね!」