最悪な一日?
ある中学校で卒業式が行なわれていた。
閉会の言葉が告げられ長かった中学校生活が終った。
周りには、泣いてしまっている人やこの後の予定を決めている人など様々な人がいた
三年間お世話になった教室や理科室などを見に行こうと、体育館から出ようとした
「写真撮りまーす卒業生の皆さんは集まってくださーい」
どこかからそんな声が聞こえた
声のした方を見てみると先生方の近くで首からカードを下げている、学校の関係者であろうカメラマンが大きな照明とカメラを持って卒業生たちを集めていた。
カメラマンの近くには、確か名前を「現」とか言ったはずのカメラオタクが一緒になって写真を撮っているのが見えるため、参加は任意のものなのだろう。
(行くかぁ…)
思い人とのツーショットを撮る最後の機会になるかもしれない、この時を待ちわびていた。
といってもツーというには余計な人が多すぎるクラス写真ではあったが、これも大切な記録の一つとなるだろう。
周りのみんなが、写真を撮るために移動を開始したのを見て、早足でオレも移動を始める。
「青碧さんとの…」
そこまで言いかけたところで、聞き覚えのある声に呼びかけられる。
「ゴミミライ聞いてんのか?そうだ!テメェのあだ名、ゴミとミライでゴミライにしてやろうか?な?俺、パッと出たあだ名にしてはセンス良くね?」
「知らねえよ、変なあだ名をつけるな。第一にゴミはお前だろクズ虫」
呼びかけられる。というにはあまりにもトゲのある言葉、それにすかさず言葉のナイフで応戦する。
「ゴミライさんよォ、よくもまあ、こんな晴々しい人間様の卒業式だァ゛てのに。俺の視界に入ってきやがったなクズ虫」
応戦も虚しく、こいつには全く聞いていないようだ。訳もわからないまま、常人には理解しがたいトンデモ理論をこちらに押し付けてこようとする。
学園物のライトノベルでもこのレベルの悪役・ガキ大将ポジは、なかなかお目にかかれないだろう。
(卒業式もおとなしくできないのかこいつは)
それでも卒業式の最中までははおとなしくしていたようなので、問題児のこいつにしてはよく耐えていた方ではあるのか。と理解する
爆発寸前のこいつの視界に入ったオレも不用心だったな、と、ほんのちょっぴりだけ反省する。こいつの気まぐれにいちいち反省してたら心がもたないため、本当の本当にちょびっとだけだ。
(それならもうちょい我慢してほしかったな…)
「ア゛ァ?今心ん中で、もうちょい我慢してほしかったとか思ってんだろ?」
「それが分かってるならおとなしくしてくれ、当代」
名を「当代」というこの、警察に何度もお世話になるような、いかにもな問題児は、この世で一番嫌いな奴だ。世界広しといえど、ここまで負の感情を向けられるのはこいつだけだろう。
噂によるとこいつの親はその筋の人間らしく、その血を濃く受け継いだのだろう。どんな教育をされてきたのか…
親の顔がいてみたい物だ。本当にその筋の人間ならば願い下げだが…
こいつがいなければオレの学校生活は、もっとずっとずっっっと華やかな物だっただろう。
売られた喧嘩を買ってやるのもいいが、今は卒業式が終わったばかりだということもあり周りには人がたくさんいる。
なんなら、大声で罵詈雑言の言い合いをしていたせいで周りにワラワラと野次馬が集まってきている。こんなところで喧嘩を買ったら先生に速攻で報告されて呼び出し喰らうのがオチだろう。
そんな事になっては、中学最後の卒業式が最悪のものとなってしまう。それだけは避けなくてはならない。
こいつの対処をどうしようかと思考を巡らせ、頭を抱え、悩みに悩みまくる。
すると、遠くからも声が聞こえてきた。
「上の段の人、下の段の人の間からしっかり顔出して」
もう撮影が始まろうとしている合図だ。参加者をよく見てみるとそこには案の定、麗しきオレの姫である青碧さんの姿も見える。
こうなってしまったら、当代の相手などしていられない。一刻も早く合流せねばならない
全速力で当代を振り払おうと、ほんの一瞬当代の隙ができた瞬間を狙い走り出す。
「ハッ!ゴミライの考えはお見通しなんだよッ!このド変態が!!」
ついさっき決められた気持ち悪いあだ名で呼ばれながら、進路を塞がれる。無駄にでかい体をしているためブロック性能はかなり高めだ。
それでも、諦めるわけにはいかない。青碧さんとのせっかくの写真撮影の機会なのだ簡単に飽きられるものではない。諦めてはいけない。
「変態はどっちだよ!」
捨てゼリフを吐きながらもう一度挑戦を試みる。
厄介なのはこいつが心を読んで次に進むであろう道を予測し、すべて塞いでくることだ。
もちろん本当に心を読む能力なんて人間に備わってるはずがないため、きっと当代の場合は仕草や目線で読んでいるのだろう。
そうだとすれば、対処法は簡単だ。
オレは思いっきり目を瞑り、目線を遮る。ついでに、背筋をピンと伸ばし微動だにしないように直立する。
こうして仕舞えば、仕草、目線どころではない。あとは、当代の右を通るか左を通るかの二択になる。
(みぎだあああぁあ!!)
当代の壁さえ超えることができればあとは、足の速さで抜き切ることができる。
ステージに上がって仕舞えば流石の当代も手が出せなくなるだろう
その頃には、騒ぎを聞きつけてやってきた先生も到着してる頃だ。
あとは、この二分の一を当てるだけだ
目を瞑ったまま走り出したため前がどうなっていたかわからない。
ただ一つだけわかることがあるとすれば。
「いってえええええ!」
顔面を何かに強打し、その反動で思いっきり後ろに倒れて床に頭を打ちつけだようで、それなりの激痛がオレを襲ったことだけだ。
その、顔面を強打したであろう壁のような存在が、心の底から嗤いながら言う
「だからいったろぉ?ゴミライの考えはお見通しだって」
それと被さるように、またもや遠くから声が聞こえてくる。
「はいっ、みんな〜嗤って」