異世界に入れば異世界に従え
「つまり、この世界は一日が経つごとに成長速度が倍になっていくということですね。」
木材でできた椅子に腰を下ろしているミライがさっき起きた出来事を簡潔にまとめる。
夜も深くなっていき、外は肌寒いを超えて明確な寒さを感じるようになった為、場所を近くの僕の実家に変えた。
四人家族だったため椅子も、机の大きさも十分にある。
ミライと対面するように席に着く。ティーパックを見つけたため、あらかじめお湯を沸かしておこうとポットに水を入れようとしたところで、お湯程度なら魔法で出せるということに気づく。
「よく考えたら、魔法ってなんだよ…気持ち悪い。こんな力、たった数日で手にしていいもんじゃないだろ。」
脳裏に少し前に起こした大爆発が過ぎる。
あの時は何もこの力に疑問を抱いていなかった。ただただ魔法が使えるということに浮かれていた。
頭の中にあるのは一つの先が見えないことによる恐怖
(このまま100日くらい死者が現れなかったら成長率は138倍。その時の僕は、僕なのか?世界の心理的なことまで辿り着いて廃人と化すんじゃないか?)
世界の心理〜のくだりはSFの見過ぎだと自分でも理解しているため半分冗談なようなものだが、自分が自分でなくなっていそうという恐怖は本物だ。
本当に138倍なんて世界が実現したらどうなってしまうのか予想もできない。できるはずもない。
だが、ろくなことになっていないということだけはなんとなく分かる。
大爆発がそのいい例である。元の世界ではあのレベルの爆発などまずお目にかかれない。
そんな『大』がつくほどの爆発を15歳の少女が火薬も何も使わず、数日で、『魔力』という、よく考えたらわからないことだらけの力を使い引き起こせるようになったのだ。
「ミライ〜どうすりゃいいかな…。最初はこの世界にウッキウキだったけどもう怖くて何もできそうにないよ、、」
もういっそ何もしないでベットに寝転がるだけの生活を送ればそもそも成長できることをなくし成長を止める。そっちの方がいいのではないかと思い始めてきた。
「オレに言われてもそんなのどうしようもないですよ。だけど、そんな恐怖のどん底や哲学の最深部なんかに辿り着いた時の対処法は知っています!」
「おぉ〜!!さすがミライ!!!やっぱ頼りになる〜」
「簡単なことです。『楽しいこと』を一緒に考えましょう!」
そうか、と心の中で呟く。いつも自分で貫いてきたではないか『めんどくさいの精神』を、今こそそれの出番だというところだ。
(この先の未来のこと考えるなんてめんどくせえや)
そこまで考えがまとまると、さっきまでの暗闇に包まれたトンネルを無理やり歩かされるような胸の締め付けが楽になる。
「おっけ、じゃあ何について考えっか?お茶の準備もできてるよ〜」
「ありがとうございます。では、せっかく異世界に転生できたので、このPPWを抜けた先の異世界がどんなものかについて語り合いましょう」
これからの雑談が長くなることを意味するように、ミライはより椅子に座る腰を深くし、ルイボスティーを口に含む。
「まずは前世の記憶…異世界ラノベなどの知識から仮説を立てたから聞いてほしいのですがいいでしょうか」
「なに?きかせてきかせて」
「この話をする前に、今回はどのパターンの転生に分類されるのかという話からさせていただきますね。」
「パターン?」
「今回の場合は十中八九、俺TEEE系ですね。」
それもそうだ。こんな世界を用意されてはやるしかあるまい。まあ人によっては、農作業などをこの世界で極めてスローライフを送る人もいるのだろうが、僕は俺TEEEがやりたくてたまらない。
「そして本題に入っていきましょうね。大きく分けてね。5個ほどあると思ってるんですよね。一つ目はね。大自然にほっぽり出し型ね。だけどこれは現在進行形でね。なってるからないかも。二つ目はね。王様の召喚タイプだね。でも一回死んでいることを考えると召喚は流石にないね。三つ目は……」
伊達に転生もの中心にライトノベルを読んでる訳ではないし、オタクをしているわけでも無さそうだ。それにしても
(口調変わってんなぁ~)
ミライは昔から、といっても中学だけの三年の付き合いだが。好きなことの話になると口調が変わる癖がある、具体的には『ね』が多くなる。そんなことを思っている間にもミライは語り続ける。
かれこれ二時間くらい話しているミライの話をひと言も漏らさずに全て記憶し、相槌を打つ。
これから何かの役に立つかもしれないし、何よりも
(人と話すって、こんな楽しくて心が軽くなれて、心地いいものだったんだな)
人と話すのが楽しかった。
夜が明けても話は続く。
「そういえばさ、ミライ!僕この世界で魔法の次にやる事決めたんだ!」
「さすがは青碧さんですね。ちなみに何をする気なんですか?」
意味もなく「ふっふっふっ」とカッコをつけてから数秒の間を開けて叫ぶ
「料理さ!!!」