孤独の世界で返ってくるボール
「ここは誰?わたしはどこ?」
お約束の一言を第一声にしながら目を開ける。「こんなこと言うベストタイミングなんてそうそう起きやしない」的なこと思っていた割にずいぶんと早く同じ状況になっている。
一つだけ、前と違うことがあるとしたら後頭部のあたりが妙に心地よいことだ。
まだ意識がはっきりしておらずそれが何なのかわからない。おっきいマシュマロかもしれないなんて馬鹿げたことも、いまなら本気で信じられてしまうだろう。それほどに意識が混沌としている。
だがいつまでもそうはしていられないし、そうもできない。前に気絶した時もそうだったが、僕は寝起きがいい方なのだ起きたらすぐに意識と思考が働きだす。
働き出された結果、この後頭部の心地よさが何なのか理解する。
「膝枕じゃごじゃいませんか…」
道理で寝心地がいいわけだ。膝枕なんて小さいころにおばさんからしてもらったきりだが、その寝心地の良さは今でも覚えている。暖かさと柔らかさ、匂いまでもがパーフェクトで究極の枕の一つだと今でも思っている。
「膝枕な~もう、してあげる側の年頃になっちゃったか…」
もしかしたら膝枕を楽しめる機会なんてもう起きないかもしれない、としっかりとこの感触を記憶に焼き付けておく
(ん?デジャヴが…)
とはいえ、膝枕はやった後に「太ももが死ぬ」とおばさんも言っていたほどだいぶ負担をかけてしまう行為だ、これ以上迷惑はかけれまいとそっと起き上がる。
だいぶ長時間寝ていたらしく、膝枕をしている当の本人であるミライは瞼を閉じて寝息を立てている。
「今度は僕がやってやろうか…………いや、めんどくせえや」
あいにく僕はミライと違い膝枕なんてめんどくさくてやりたくない
寝ているミライを改めて観察する。
一人称は『オレ』
僕のイメージだけで一言で言わせてもらえば、
陰キャに優しいギャル 男Ver.
もちろんこの世界には陰キャに優しいギャルなんて存在しないということは重々承知している。だが陰キャに優しい陽キャ男子は存在していてもおかしくはないじゃないか、という謎理論の元で言わせてもらっている。
体つきや身体能力などの観点から見ていくと、、まあ良くも悪くも普通といった具合だ。肥満度も-18ほどだと記憶している。身長は168.8㎝ほどのはずだが、ミライ自身は170㎝は越していると見栄を張っていた。
なぜこんなに事細かに知っているのか、それは前にミライの方から見せられたためだ。というより、見せつけられたといった方が正しいのかもしれない。
ミライはその後自分の記録を見せたというのを理由に、一方的にこちらの記録も見せるようにとせがんできたのだ。
(べつに見られても恥ずかしいとか今更思うわけでもないし、そんなことしなくても見せるのに…)
自分の身長体重を見せることについて特に深い意味はないのだろう。ただただ親しき中にも礼儀ありを貫いただけだと勝手に思っている。身長はともかく体重を見てくる時点で礼儀なんてあったものではないが…
身体能力的にはだいぶ高い方である。どのくらいかというと、いきなり飛んできた火球を初めて握ったであろう剣ではじいてくる程度には、いくらここがPPWだったとしても、到底人間にできることとは思えない。
大体ミライについてはこんなとこだろう、改めて考えてみていろいろと負けてる部分が露呈して悲しくなってくる。
「方や不意打ちで火球ぶっ放す人間と、方やオタクに優しいギャル…」
どちらがクラスカースト上位者かすぐにわかる。ミライが起きたら、全力でおなかを空に向けて寝転がり犬の降参ポーズのように『へそ天』でもするべきか…
そんなどうでもいいことまで考えが行きついた瞬間、
ミライの重そうな瞼を開き始めた。半分まで開いたところで目をこすり、とても眠そうにしている
完全に開くまで少しの時間を要した後にこちらに視線を向けゆっくりと口が動く
「夢じゃ、ないんですね。おはようございます、青碧さん」
「おはようさん」